第27話 花弁
「フィオナ! フィオナ!」
俺は彼女の名を呼び続けた。どうも様子がおかしい。あれほど魔法を使っていたというのに、フィオナの魔力が突然膨れ上がった。
彼女は息苦しそうに俺を呼ぶ。
「……アラン」
「フィオナ! どうした!? 何が起きた!?」
「……逃げ……て……」
そう声を漏らした直後、フィオナを中心に深紅の結界が展開される。花弁の形をしたそれは一気に膨れ上がり、周りにあるもの全てを押しやった。中心にいた俺は、その勢いで吹き飛ばされ、視界がホワイトアウトする。
次に目を開けると、辺りは赤いクリスタルのような結晶で満ちていた。
強烈なめまいを感じながらも、膝に力を入れて何とか立ち上がる。しばらく気を失っていたのだろうか。
ボケた視界がゆっくりと元に戻っていくと、目の前には結晶に飲み込まれた城壁が見えてきた。街の外まで投げ出されてしまったようだ。
顔を上げると、街の中心に建てられていた大聖堂を飲み込むようにして、巨大な薔薇の花が咲いていた。あの花びらの形、そしてこの結晶から感じる魔力。
「フィオナ……!」
俺は城壁を飛び越え、赤い結晶を破壊しながら中央広場へと向かう。辺りの兵は膨張した薔薇の結界に押しつぶされ、全滅していた。一方ロザリアの不死の兵は健在ではあったが、俺を見るなり襲いかかってきた。
そいつらを斬り払いながら、走り抜けていく。おそらくはフィオナの制御が効かなくなっているのだろう。今の彼らは、獣も同然であった。
不死の軍勢に追われながらも何とか広場までたどり着くと、その中心で、フィオナは体をのけぞらせたまま結界で固定されていた。そしてその胸からは、空を覆うほどに大きな結界の花が内側から突き抜けるようにして伸びていた。
「フィオナ!」
助けに向かおうとすると、目の前に巨大な影が飛来する。顔を上げると、そこには異骸化したジベラールの守護天使が、目を剥きながらこちらを見下ろしていた。その口元では、あのエルクと呼ばれていた眼帯の神父が、ゆっくりと咀嚼されている。
ラヴィエルは光剣を勢いよく振り下ろしてくる。それを何とかかわしたものの、他の異骸達も俺を喰らおうと駆け込んできた。ラヴィエルでさえ厄介なのに、こんな奴らを相手にしていられる余裕はない。
何とかフィオナの方へと向かおうとするも、彼女を守るようにして巨大な異骸が行手を阻んできた。さっき倒した異骸達も復活し、どんどん合流されてしまう。巨体を持つ異骸が振り下ろしてきた拳を横にかわすと、ラヴィエルがそちらに回り込み、俺の体を鷲掴みにしてしまった。
まずい。異骸の軍勢が、敵にまわるとこれほど厄介だとは思わなかった。
血肉に塗れたその口に放り込まれそうになった瞬間、何故だか急にその腕が弾け飛ぶ。地面に着地して顔を上げると、そこには見知らぬ騎士が立っていた。
「誰だ!?」
その兜の下からは、薄らと瘴気が漏れ出ている。それを見て思い出した。この騎士はリリスの家に向かっていた途中、国境沿いで俺達をじっと見つめてきた異骸だ。
そいつは斬撃を放ち、ラヴィエルの首を一瞬にして落とすと、こちらに向かって顎で指図をしてくる。おそらくはフィオナを連れて行けと言いたいのだろう。こいつの正体についてはよく分からないが、ひとまずはフィオナの救出が先だ。
彼女を固定していた結界を剣で破壊し、その小さな体を抱き抱える。そしてその謎の騎士が異骸を足止めしている隙に、そこから走り去った。
郊外の方まで来て、安全を確認すると、いったんフィオナのことをベンチに寝かす。薄らと目は開いていて、意識はあるようだが、こちらの呼びかけにはまるで反応がない。体も冷えきっており、まるで抜け殻のような状態だった。
「フィオナ……」
俺の知識では全く状況が分からない。フィオナを治してもらうため、俺はあの禁忌の魔女の元へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます