第四話 #狂犬のクロ

 あれからというもの、家電屋さんに行って配信に必要な機材を買ってきた。

 

 マイク、カメラ、パソコンなどなど……。

 いいモノを揃えたはずさ。


 なんてったって、かの有名な家電大好き芸人がオススメしていた機材達なのだから!

 その芸人は配信活動もしており、その彼が使っている物と同じ物を揃えた。


 まあまあ大きな出費となったが、それでも俺はAランク探索者。

 お金には余裕があるってもんだ。

 痛くも痒くもないな。

 お金は使ってこそ回るもんだしな! 

 ダンジョン省のお偉いさんのいうとおりだ!


 ちなみに姉が駄目だったら妹にも相談する予定だったが、昨日妹の配信の邪魔をして激おこだったし。

 次の日ならいいやって思ったが、結局朝飯は無かったし。

 会話はしてくれたが、どうにも相談できる雰囲気ではなかった。

 だから機嫌を直すために、今日は妹のためにドーナツを買って来たんだ。

 相談はもうしなくていいが、精一杯の誠意ってやつさ。


 妹のことは今はいいとして、とりあえず目先の問題をなんとかしなければ。


 機材のセッティングも完了したし、テスト配信も上手くいった。


 あとはそう、


「活動名を決めるだけ!」


 そうなのだ。

 あとは活動名を決めるだけ。

 決めるだけなのだが、これがなかなか決められないのだ。


 俺はゲームをするときに、プレイヤーの名前は必ずと言っていいほど、クロ、にしてきた。

 俺の本名ではないが、みんなからそう呼ばれているし、俺自身クロという愛称を気に入っていたからそうしていた。


 だから活動名もクロにしようと思っていたが、どれも何か違うのだ。


 候補としては三つ。

 

 一つは、姉みたいにシンプルに”クロチャンネル”。

 インパクトが足りねえ。

 これじゃあ名乗っても、すぐさま忘れられてしまうだろ。


 二つ目は”クロ”。

 一つ目と似ているが、一番シンプルでいいと思う。

 だがありきたりな名前で、これもまたインパクトが足りない。

 なんだかんだ覚えやすいとは思うが、他にもクロという名前の配信者はいると思うし、それらの中に埋もれてしまうと思う。


 最後は”狂犬のクロ”。

 これは某最強に噛み付くアホとして、探索者の友人から名付けられた。

 名付け理由が普通に嫌だが、インパクトがある。

 配信者の名前としては中々に良いとは思う。

 だが複雑。


 他にもいい名前があるかも知らないが、俺のネーミングセンスだとこれらが限界だ。


 こういう時は人に相談してみるに限る。


 まずは姉だ。


「ってなわけで、どれがいいと思う?」

「ん〜、やっぱり三つめの”狂犬のクロ”かなあ。インパクトあっていいし、覚られやすいとは思う。活動名を決める上で大切なのは覚えやすくインパクトのある名前。あと、インターネットで検索した時に一番上に出て来る名前がいいのだよクロ。だから、三つ目かなあ」

「なるほどなあ」

 

 お次はマジノコ。


「僕は三つ目だね」

「その心は?」

「僕が考えたあだ名だから」

「やっぱりお前が元凶だったんだな! くたばれ!」


 最後に冒険者仲間達は。


「「「狂犬のクロで!」」」

「なんとなくそんな気はしたけどさあ……一応なんで?」

「なんてったってお前は最強に噛み付くアホ……」

「最強を目の敵にしている、逆張りこそがお前だからだ」

「あとは、アンタレスがそれ知ったらなんか面白そうだからな!」

「うわぁ……」


 以上だ。


 満場一致で狂犬のクロだった。

 なんか嫌だ。

 だって不名誉じゃないか。


 だが、パンチは効いていている名前だとは思う。

 みんなもそれがいいって言ってるし……。

 でもアイツが関わっている名前は……。


 いや、これはプライドとの戦いだ。 

 いかに俺がプライドを捨てられるか!


 こんなちっぽけなプライドを残したところで、アンタレスを超えることなどまあ無理だろう。

 そんなプライドなんかゴミ箱へとポイッだ。

 

 だからこれは決意だ。

 お前に噛みついて、いつかは超えるというアンタレスに向けたメッセージ。

 全てはチート野郎を超えて最強になるために。

 そしてなにより、フードコートのお姉さんを俺に振り向かせるために!


「俺の名前は、狂犬のクロだ」

 

 …………。

 まあ、いいだろう。

 なんか自分で名乗るとダサいが、まあいいさ。

 今日から俺は狂犬のクロと活動するのだ。


 そういうことで活動名が決まり、ようやく配信活動を始めることにするのだった。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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