第23話

短い文であっても、飛鳥の頬を涙が伝う。


和音への想いがここまで溢れるほどに強いのかと、飛鳥は自分でも戸惑った。


飛鳥が和音からの文に心を躍らせていると、同室の男娼が部屋へと入ってきたため、飛鳥は慌てて文を隠す。


けれど、飛鳥の胸は締め付けられそうなほどに高鳴ったのだった。


和音がくれた言葉は、飛鳥も同様に思っていることだったから。


飛鳥の様子に違和感を覚えたのか、同室の男娼が尋ねてくる。


「どうかしたのか?」


「う、ううん。何でもないよ」


飛鳥が答えると、その男娼はまた部屋から出ていってしまった。


どうやら、物を取りに来ただけらしい。


男娼が去ったのを確認すると、飛鳥はホッと溜息を吐いた。


そして、和音に返事を書くことを思いつく。


紙と筆といった道具は用意したが、何て書くのが正解か悩んでしまう。


下手なことを書きたくなかったからだ。


和音に初めて文を書くのなら、しっかりと自分の気持ちを伝えたい。


しばらく悩み続けた末に、飛鳥が書いたのは「あなたがいるから、生きられます」という言葉だった。


こんなことを書いたら重いだろうかとも思ったが、今の飛鳥にとっては和音が生きる意味になっている。


重いと思われようが、それが真実だった。


書いた紙を折り、飛鳥はたまたま廊下で和音とすれ違った時に渡した。


今の自分の気持ちが届いて欲しいと願いながら。


池のほとりで会う時も、紙切れで約束をした。


いけないことをしているようで、背徳感もあるためより和音との逢瀬は燃える。


ある時、池のほとりで二人座っていると、和音が聞いてきた。


「お前、ここを出たらどうするつもりだ?」


飛鳥は、その質問の真意を図りかねた。


しかし、深い意味はないのだろうと思い、「考えていないよ」と返す。


一瞬、飛鳥との未来についてどうしたいのか聞いているのかと思ったが、それはいくら何でも自惚れというものかもしれない。


そうだったなら、嬉しいのだけれど……。


和音は爽やかな表情でこう続けた。


「そうか……。俺はさ、故郷に戻って商いをしたいと思ってるんだ」


ここに来て間もない頃から考えていたことだという。


「商いって、何の商売をするの?」


漠然と商いといっても色々あるから、明確なことは分からない。


「う~ん……。それはまだ決めてないんだ」


これから、追い追い決めるということか。


「一緒に考えてくれるか?」


それは、ここを出た後に共に商いをしていきたいという気持ちも含まれているのだろうか。


「う、うん……。もちろんだよ」


飛鳥がそう返事をすると、嬉しそうな笑みを零す和音。


「やった!ありがとう。楽しみにしてるよ」


そう言って、和音は飛鳥の頬に口付けをした。


「そうだ。俺が飛鳥の生きる意味になってるんだろ?」


色っぽい視線で問われ、飛鳥は慌てふためく。

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