025

 貴族様達が砦内で会議をして配置が決まると、一度陣を片付けて移動する。

 砦の外壁を使って守るのではなく、野戦やせん陣形じんけいを組むらしい。

 私達はビルザーク様が王族におぼ目出度めでたいおかげか、前線ではなく本陣の右翼外側へと配置された。

 正面から馬鹿正直にぶつかり合うのなら安全な位置だが、奇襲きしゅうを行うならば真っ先に狙われる位置でもある。

 だが安全な位置に兵を置く代わりに、何故かすでにいた第4王子であるエナークダイト様の護衛としてビルザーク様が砦に残る事になったそうだ。

 王の座を狙い、優秀さを示すのなら。人数での力押しで勝ってはゴリ押しのバカの評価はまぬがれない、十中八九じゅっちゅうはっく奇襲きしゅう潜伏等せんぷくなど奇策きさくを使って来るだろうから手放しには喜べない。


 私の位置からは人垣ひとがきで見えないけど、遠くで敵も陣形を組んでいるらしい、援軍えんぐんが来るまで待ってはくれない様だ。

 自信満々じしんまんまんに攻めてくるのだから当たり前だが、敵の数はこちらより多い。会議に出たベガルーニ様の話では3万ほどの兵が確認されており、こちらよりも1万人も多いとか。

 陣形を組んで遠くで向かい合ったものの、その日は夜になっても戦争は始まらず。次の日も呑気のんきに配給のスープとパンをむさぼるだけでぎていき、砦に着いてから5日目の朝ようやく動きがあった。

 敵陣が割れて中央からゴテゴテと飾った馬に乗った者が進み出て、大声で何やら言っている。遠すぎて耳を強化してもすべてを聞き取ることは出来ないけど、祖父いわく戦争の正当性とやらをかたっているらしい。

 相手が言いたいことをまくし立てると、こちらからは騎士が進み出て、先程の言い分をすべて否定し口汚くちぎたなののしった後に戻って来た。

 開いた道が閉じ、銅鑼どら太鼓たいこが鳴りひびくと未だに座っていた兵士達も立ち上がる。いよいよ始まるらしい。


 横一列に並んだ敵兵が歩いて後数秒走ればぶつかり合う位置で、天に伸びていた10mはあるんじゃないかという長槍パイクが寝かせられ、銅鑼どらが鳴り響くと一気に駆け出した。

 確実に死ぬだろう最前列にいるのは、奴隷や犯罪者にスラムの住人のような者達ではなく訓練された兵士達らしい、最初に陣形を崩されるとなし崩しに侵入されて、その様な者達はすぐに逃げ出してしまうので怪我をしたものと交代で徐々に前に出していくのだそうだ。

 怪我をした兵も後ろに下がって治療をされて最後尾に並ぶ。貧乏びんぼうくじかと思いきや、報奨ほうしょうやすく立身出世りっしんしゅっせを望む者には人気なのだとか。


 しばらく頭と槍しか見えない前方を見ていたけど、近くに居た狩人がさわぎ出した。


「なぁなんか森の中にチラチラしたもんが見えんか?」


 ざわつく兵士達の前に出て目を強化してよく見てみると確かに森の奥で何かが光っている気がする。

 慌ててうちの領の斥候せっこうが確認に向かうとしばらくして伏兵ふくへい発見と報告してきた。

 本陣から出た斥候達はやられてしまったんだろうが、こんな所まで来る前におかしいと気がついて欲しいと切実せつじつに思う。


「伝令!右翼外側の森に敵兵発見。総数不明、本部に伝えよ!」


「はっ!」


 ベガルーニ様が伝令を走らせ、陣形を少し直す。敵にもこちらの事が伝わったのか、徐々に森の中の光が増えて来た。

 本陣を後ろから襲おうとしたのか、前線のある左手方向だけではなく右手方向からも森から出てくるのを見て、私は自陣の右側前方に進み出た。


「ユミル、言っても下がる気は無さそうだな。」


「はい、敵が多すぎます。せめて前線を崩さなければ早々にき潰されるでしょう。私が安全に前線を開くので、父さんもそこから入るといいですよ。」


 右翼外側に配置されてるのは私達だけではないが、私達が最後列だ。これ以上後ろは本陣を守っている部隊か、食料を運んでいる輜重しちょう部隊だけだろう。

 木々の間から出てきた敵兵が、こちらに槍を構えて並びだす。並ぶ前になんとかしたいけど、まだ100mはあるので勝手に向かうわけにも行かない。

 敵に後ろへ回られないように少しずつ陣を移動させてはいるが、まだベガルーニ様の号令は無かった。

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