エピローグ②

『でねでねっ! この前、新しい商談をお父さんからやらせてもらったんだ!』


 さて、その日の夜。

 女の子達が浴場に行ってる間、ユリスは一人リビングで可愛らしい少女の声を聞いていた。

 最近もらった、通信の魔導具。

 そのもらい先の少女の声を聞いて、ユリスは思わず笑みを浮かべてしまう。


「すげぇーじゃん、同い年でもう商売任せられるとか、素直に尊敬するよ」

『えへへっ……ユリスくんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ』


 この魔導具をもらう際、学園での話を聞かせてくれることになった。

 少し前まで懸賞金関係でバタバタしていたためできなかったが、最近になってようやく通話をし始めたのだ。

 何回か重ねているからか、今ではすっかり学園以外の話もするようになっている。

 特に、堅苦しいのあまり好きじゃない派のユリスから「敬語いらないよ?」、「え、でも……」というところからルナが親しげに話せるようになったぐらいは、仲良くなったのではないだろうか?

 ユリスもユリスで、相手がヒロインなのに警戒しないで親しくなっている。

 恐らく、それは「自分に協力してくれる」という部分が味方だと思わせてくれたからだろう。


「そういえば、別荘の方は大丈夫か? なんか、うちの先輩がはっちゃけて見るも無惨な姿になっちゃったが……」

『ううん、それは全然。あそこは別にあまり使ってない場所だったから!』

「だけど」

『それに、今回の一件で王族に借りが作れた。恩はお金じゃ買えないし、商会としては実質プラスのようなものなんだよ。今度、王族主催のパーティーに参加させてくれるしね』


 前にも言っていた話ではある。

 だが、商人ではないユリスとしては「本当か?」と、素直に心配になってしまうものだった。

 しかし―――


『あと、私は別にユリスくんのためだったらなんでもしてあげられるし』

「ッ!?」

『あ、なんだったら今度別荘一つあげちゃおっか?』


 その言葉を聞いて、ユリスの頬に熱が上る。


「あ、あんまりからかわないでくれ……」

『ふふっ、冗談じゃないんだけど了解。あんまりからかっちゃうと、アイリスちゃんに怒られちゃうからね』


 やはりヒロインと言うべきなのか、一つ一つの言動に惑わされてしまう。

 アイリス然り、リーゼロッテ然り、フィア然り、ルナ然り。

 最近では、ゲーム外キャラクターであるセリアにまで振り回される日々。

 そのことを改めて思い知らされ、ユリスは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 すると―――


「ご主人様、またルナさんとお話してるんです?」


 ピトッ、と。

 突然、後ろからふくよかな感触が襲い掛かってきた。


「……おいこら、美少女メイド。絶対振り向かないがあえて言おう……貴様、背中に伝わる感触があまりにも柔らかすぎるぞバスローブか?」

「はい、正解です♪」

「ちくしょう、当ててしまった……これじゃあ目視での確認ができねぇ……ッ!」


 振り向けない。いや、振り向きたい。

 しかし、ここで振り返ってしまえば欲望に負けた男みたいな構図になってしまう。

 何せ、先んじてバスローブ姿だと当ててしまったから……ッ!


「っていうか、お前大浴場行ってただろ!? 部屋までの公共の場を布切れ一枚で闊歩できるその勇気はどこから湧いてくるんだ!?」

「そりゃ……ご主人様への愛です、きゃ♡」

「ダメだ、ルナ! もうこいつは淑女としての慎みと恥じらいをドブかタンスの中に失くしちゃってる!」

『あははは……アイリスちゃんは相変わらずだなぁ』


 ユリスとの通話中にアイリスが乱入してくることは何度かあった。

 だからからか、通話越しのルナは驚くことなく乾いた笑いを聞かせてくる。


『アイリスちゃん、あんまりそっち方面でユリスくんを困らせちゃダメだよ? そういうのは、ちゃんと互いの合意を得てじゃなきゃ』

「むぅ……ルナさんが言うなら、大人しくパンツだけは履いてきます」

「パンツだけなのか」

『せめてもう一つだけでも譲歩してほしかったね……』


 トボトボと、少し寂しそうな背中を見せるアイリスは、そのまま自分の部屋へ入っていく。

 その姿を横目で見て確認したユリスは、大きなため息をついた。


「はぁ……あいつ、俺に鋼の理性がいつでも展開されてるって勘違いしてねぇか?」

『うーん、そんなことないと思うけどなぁ』

「あと、主人である俺よりルナの言うことを聞くのが少し釈然としない」

『そこはほら、親近感? みたいな感じがあるからじゃないかな? ほら、一応平民同士だし』


 加えて、アイリスに以前『頼もしい』発言をしたからだろう。

 いい人認定されたからこそ、ルナとの距離が近くなったのかもしれない。


『あ、そういえば』


 ふと、ルナが何かを思い出したような反応を聞かせる。


『学園にさ、この前遅れて入学してきた女の子がいるんだけど……』

「もしかして、聖女様?」

『あれ、ユリスくん知ってたり?』

「まぁ、ちょっとな」


 聞いてはいないのだが、これもシナリオの一つだ。

 世界的宗教が誇る、神の御使いである聖女はヒロインの一人で、学園に遅れて入学してくる。

 ヒロインの一人ということもあって、ユリスはそのことを見たことも聞いたこともないが知っていた。


(っていっても、他のヒロイン以上に聖女様は関わることがないしなぁ……だって、学園にいない時点で接点なんて生まれないし)


 学園に入る前だったら、もしかしたらあったかもしれない。

 リーゼロッテやフィアのように、できてしまった関りが残ってズルズルと続く……ようなことは、実際に起きてしまっている以上、可能性はある。

 しかし、学園がすでに始まった状態で関りがないのなら、今後も生まれる予定はないはず。

 だからこそ、ユリスはルナの話を軽い相槌で返した。


『あー、じゃあこれも知ってるんだ』


 ……もしかしたら、その決めつけがいけなかったのかもしれない。


『今度、ってこと』

「……Why?」



 せっかく終わったと思ったのに。

 どうやら、悪役を取り巻くヒロインのイベントは、まだまだ続きそうである───



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 お久しぶりです、楓原こうたです。


 本編、これにて完結になります!

 最後までお付き合いしていただいた読者の皆様、ありがとうございました!🙇💦

 また次の作品の際には、どうかよろしくお願いします!🙏🙏🙏

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