隣のベッドの住人
俺たちは修学旅行で、地方の老舗ホテルに泊まることになった。歴史ある建物らしく、少し古びているけど、雰囲気は悪くない。俺と友達のタカは、同じ部屋で二泊三日を過ごす予定だった。
到着初日の夜、自由時間を過ごした俺は、他の部屋にいる親友のケンジのところに向かった。みんなでゲームやお菓子を食べながら、夜が更けていくのを楽しんだ。タカはどこに行ったのか見当たらなかったが、まぁ、他の友達の部屋に行っているのだろうと思い、特に気にしなかった。
その後、11時頃になって自分の部屋に戻ると、タカの姿がないことに気づいた。「まだ戻ってないのか…」と呟きながら、俺はベッドに腰を下ろした。タカのスマホも部屋に置きっぱなしだったので、連絡を取ることもできない。
「まさか、迷子になったのか?」と不安が募る。俺は心配になり、先生に相談した。先生たちはスタッフと一緒にホテル中を探し回ったが、結局タカは見つからなかった。誰もタカの姿を見ていないという。時間はもう深夜2時。仕方なく、俺は一人で寝ることにした。
布団に入ると、部屋の静けさが妙に気になった。窓の外から風が吹き込んで、カーテンが揺れる。時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。隣のベッドは、タカのためにきちんと布団が敷かれていた。俺は「早く戻ってきてくれよ」と心の中で願いながら、目を閉じた。
うとうとしてきた頃、不意に寒気がした。まるで氷のように冷たい空気が、部屋中を覆ったような感覚だった。俺は布団を頭までかぶり、なんとか眠ろうとしたが、ふと隣のベッドに違和感を感じた。
誰かがいる…?
恐る恐る目を開けると、隣のベッドに人影が見えた。そこには、青ざめた顔をしたタカが横たわっていた。俺は一瞬、安堵した。
「なんだ、戻ってきたのかよ。先生たちが心配してたぞ。」俺は笑いながら声をかけた。
しかし、タカは答えない。彼の顔は不自然に白く、唇は青く変色している。体はボロボロの布に包まれ、まるで病人のようだ。俺は次第に違和感を覚え始めた。これが、本当にタカなのか?
「タカ…?おい、大丈夫か?」
俺が声をかけると、タカはゆっくりとこちらを向いた。その目は虚ろで、焦点が合っていない。まるでこの世のものではないような、深い闇を宿した目だった。そして、タカの口がゆっくりと開いた。
「…戻って、来た…」
か細い声だった。聞き取れるかどうかのぎりぎりの音量で、彼は言った。しかし、その言葉の意味は分からなかった。俺は立ち上がり、ベッドの横に立った。
「お前、本当にタカなのか?」
その問いに、タカは再びうなずいた。だが、次の瞬間、彼の体が異常な角度で曲がり、ボロ布が音もなく床に落ちた。目の前にあったはずのタカの姿が、霧のように消えてしまったのだ。
俺はその場に立ち尽くした。何が起こったのか理解できず、心臓がバクバクと音を立てていた。その時、部屋のドアが急に開き、先生が飛び込んできた。
「見つかったぞ!タカがホテルの外で倒れている!すぐに病院に運ばれる!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は足が震えた。タカが倒れている?じゃあ、さっきのは一体…?
翌朝、タカは病院で目を覚ました。彼は混乱した様子で、昨夜のことを何も覚えていないと言った。俺は、あの夜の出来事を誰にも話さなかった。誰かに話しても、信じてもらえないだろうと思ったからだ。
ただ、一つだけ分かることがある。あの夜、隣のベッドにいたのは、俺が知っているタカではなかった。
短編ホラー集 あ(別名:カクヨムリターンの人) @OKNAYM
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