最後の荷物
俺は、ごく普通の有名な配送会社の配達員だ。今日は午前中に悪天候があって、配達スケジュールが大幅に狂ってしまい、最終の配達先に辿り着いたのはすっかり夜になってからだった。残りの荷物は3つ。しかし、そこは古びたアパートで、全体が不気味な雰囲気に包まれていた。
建物に入ると、エレベーターは故障中で、蛍光灯もちらちらと点滅している。長年メンテナンスされていないことが一目でわかる。正直、この場所に住んでいる人がいるのかも疑わしいが、俺は仕事だから仕方なく配達を続ける。
まず最初の荷物は、102号室。インターホンが壊れていたため、仕方なくドアをノックする。 「コンコンコン…」 数秒後、ドアがゆっくりと開き、若い女性が現れた。彼女は青白い顔をしており、どこか悲しげな表情を浮かべている。俺が荷物を差し出すと、彼女は小さな声で「ありがとう」と言い、荷物を受け取ると無言でドアを閉めた。何かが違和感を残したが、配達は順調に進んでいるので気にしないことにした。
次は303号室だ。エレベーターが使えないため、階段を上る。インターホンを押すと、すぐに若い男性が出てきた。彼はさっきの女性とは違って、明るく元気そうな様子だった。部屋の中をちらりと見ると、驚くほど綺麗でおしゃれな空間が広がっている。まるでこの古びたアパートとは別世界のようだ。俺が荷物を渡すと、彼は無言で受け取り、静かにドアを閉めた。
最後は205号室。インターホンがなかったため、またドアをノックする。 「コンコンコン…」 しかし、今度は何も反応がない。再びノックしようとした瞬間、ドアがわずかに開き、その隙間から一枚の紙が舞い落ちてきた。拾ってみると、そこには赤いインクでメッセージが書かれていた。
『俺はこれでもう一度繋がれた。これでもう、??4号室からは逃げられないからね。』
雨に濡れていたせいか、「??4号室」の部分は読み取れなかったが、不気味な雰囲気が漂っていることだけは明確だった。何か良くないことに関わってしまったような予感がしたが、俺は荷物を玄関に置き、そそくさとその場を立ち去った。
外に出てトラックに戻ると、信じられないことに荷物がもう一つ増えていた。荷物は明らかに最初に持っていた3つとは異なるもので、送り先が「304号室」と書かれていた。しかし、俺は304号室の荷物なんて預かっていないはずだ。
困惑しながらも、俺は304号室に向かうことにした。トラックに置いておくわけにもいかないし、早く終わらせて帰りたかった。再び階段を上り、304号室の前に立つと、ドアには何故か鍵がかかっていない。静かにドアを押すと、錆びた音とともにゆっくり開いた。
暗闇の中、足元に誰かが倒れているのが見えた。懐中電灯で照らすと、それは間違いなく先ほどの若い女性、102号室の住人だった。だが、彼女は既に動かなくなっていた。近くには赤い筆ペンが転がっており、彼女の手には何かが握られていた。
恐る恐る近づき、彼女の手からメモを取り出すと、そこには新しいメッセージが書かれていた。
『これで全てが完了した。俺たちはもう、永遠にここに縛られている。あなたも。』
心臓が激しく鼓動する中、背後でドアが勢いよく閉まった。慌てて振り返ると、そこにはさっき配達した303号室の男が立っていた。彼の顔は無表情で、ただじっと俺を見つめていた。
「…何なんだ、これは?」俺が叫ぶと、彼は静かに一言だけ呟いた。
「歓迎するよ。君も、もうここからは出られない。」
その瞬間、全身が重くなり、まるで見えない力に押しつぶされるような感覚が襲ってきた。次第に視界が暗くなり、意識が遠のいていく中、俺はもう一度、あの赤いメッセージの言葉を思い出していた。
『逃げられない。』
気がつけば、俺は304号室のドアの前で立ち尽くしていた。目の前には配達の荷物が一つ増えていたが、それが誰宛かを確認する気力はもうなかった。
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