第8話 形勢逆転
しばらく二人で話していた。酔いも回ってきて僕は気分よくなっていた。
ラスタも少しだけ飲んで、彼女はあまり飲めないらしく、コップ一杯の半分も進んでなかった。それでも顔は仄かに紅潮して、動きが鈍くなって、とろけた目を見せていた。
「私はね、エース。今まで魔王の立場を護ってきたけど、対立なんかやめて、人間との共存も不可能じゃないと思ってるの」
魔族と人間の共存。彼女の優しさがそんな考えを生ませるのだろう。器がでかいともいえるし、突飛な空想家にも思える。でも、彼女の顔は真剣そのものだった。僕は煙草をくゆらせながら、しみじみと感じていた。
「でも向こうはその気じゃないみたいだよ」
「なぜかしら……」
「なぜって、そのためにお仲間が頑張ってるんじゃないか。ポレは王国で君たちが人を食らう化け物だって、相当生き生きしていたよ」
「まあ、そんなことしてるの――」
「なんだ君知らないの?」
「あの子は――とても忠実に働いてくれるけど、少し独りよがりで、突っ走ってしまうのよ」
そう言ってラスタは顔をうつ向く。自分が統率のとれていないことを恥じているようだった。
「それでも、おかげで王国はこちらに危害を加えようとしなくなったんだ。悪いことじゃないよ」
「ええ」
励ましの言葉ではなく、本心から僕はそう思った。彼女たちは戦争を好んでないらしい。ポレはそのために一役買ってる。敵情視察は言い過ぎかもしれないが、相手を知ろうとするのは平和の第一歩に違いないからだ。
そこで、オルサバトルの言葉が気になる。彼女は、「強いものが弱いものを制す」と言っていた。彼女はラスタの側近で護衛役、大剣も振り回すし、戦闘を好んでいるのかもしれない。
内部で分裂か――面倒くさい問題だな。まだそうと決まったわけじゃないが、一度聞いてみる必要があるな。
酔いが回ってきて、いよいよ僕は上機嫌になっていた。
「風にあたろうか」
「そうね――でも、すこし危ないわ、外は暗いし――オルサバトルは起きてるかしら」
夜に二人で散歩も迂闊にできない。これが上に立つ者の意識なのだろう。僕はその弱気に笑った。
「必要ないよ。ちょと城の周りを歩くだけさ。――僕なんか、茂みの中で居眠りこいても助かったよ」
「でも、まだ話は終わってないのに――」
ラスタは気まずそうに、髪を触って言った。
ははあ、読めたぞ。
彼女は僕を酔いつぶして、ことを成そうとしてるんだ。女らしい、かわいい作戦じゃないか。
でも、こればっかりはお互いにちゃんと考えないと。無責任な返事はしたくない。
「オルサバトルが許さないわよ」
この発言は、彼女の最終手段、最後の切り札らしかった。うんうんと一応うなずいてから、さしあたって別の回答を考えた。頭は意外と明瞭に回った。
「窓からこっそり抜け出そうよ。なに、バレやしないよ」
これには反論できないらしい。しぶしぶ彼女はうなずいた。僕は勝利の後の至福の一服を決め込んだ。
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