第49話 どんな目に

 翌日の真夜中から、部下さんが屋敷へ亡くなった騎士様たちを店へと連れて来てくれた。

 交渉が上手くいきますようにという祈りは空しく、アトリエには沢山の騎士様の亡骸が運び込まれた。氷山の向こうの国と店とを何度も往復する部下さんによって夜明けになってもそれは運ばれ続け、その惨状に悲しむ暇もなく僕はラフィネさんの指示のもと作業を始めていた。

 それとほぼ同時刻には、人目を憚るように馬車で武器を運んで来たオレリアンさんの後輩騎士二人も来店した。

 惨状を見るや否や、一方の騎士様は自分の太ももあたりを、強く握り込んだ拳で叩き俯いた。

 鈍い音が何度も繰り返される。

 力を込めろと脚に殴って言い聞かせないことには、今にも床に伏して泣き喚いてしまいそうだったのだろう。

 騎士として同じ戦場で戦っていたのなら、泣いている暇などはない。しかし今回はただなにも出来ずに、団長らが生きて帰ることを祈ることしか出来なかった。その不甲斐なさに咽び泣くのを堪えている様子だ。

 もう一方の騎士様は落ち着き払った様子で、脚を殴る騎士様の手を掴み止めた。膝をつき顔を覆ったその騎士様に、自らも片膝をついて跪き慰めるように彼の背にそっと手を当てた。

 彼も彼で、先輩騎士たちに後を託されたことへの責任と重圧を噛みしめ、溢れ出る感情を押し殺しているように見えた。

 家族よりも近い存在だった者を失った悲しみが、彼らの悲痛に歪んだ顔に滲む。



「酷いですね…」



亡くなった人は腐敗していたり、肉体が削げて骨の一部が露出していたりするのはもう見慣れてしまったけれど、攻撃魔法を浴びたのだろうとラフィネさんが推測する騎士はみんな溶けたり変色したりしていた。



「参りましたね、本来予定していたよりも骨が使えないかもしれません」


「剣の柄ごと替える予定でしたが、装飾だけにしますか?」


「同じことを提案しようと思っていたところです」



 次々と運ばれてくるご遺体をアトリエで火葬しながら作業を進めていく。流石に鼻が利かなくなってくる。

 二日間かけて何とか手分けして千百四十三人分の作業を終え、残り五十七人となった。魔法使いたちが人間の遺体を回収しないことは不幸中の幸いだった。持ち去られてしまえば、オレリアンさんたちから頼まれた依頼を遂げることが出来なくなってしまう。

 けれど、途切れることなく続々と運ばれてくる騎士様の中に彼はいなかった。



 作業開始から二日目の深夜、最後に運ばれてきた三人の遺体のうちの一人が彼だった。



「申し訳ありません。この方々は全てを探すのに時間がかかってしまって」



団長である彼とその直属の部下だと思われる二人はどんな目に遭ったのだろう。

 仮眠を取ってくださいと何度言っても先輩たちを弔うと言って聞かなかった後輩の騎士様たちは、疲れが出たのかやっと眠ってくれた。アトリエでクマの目立つ目を閉じ眠る彼らに見せるのが憚られるほど、三人は無残な姿になっていた。

 それは紛れもなく、憎しみの連鎖が織りなす争いを終わりにしようと人間の国へ向かい殺された魔法使いの青年のための報復だった。目の前の三人の騎士様は、その少年と同じように身体が原型を保っていない。

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