第40話 ふたつの音色
「そうだわ、お二人も晩餐会にいらしてくださらない?。お片付けのお手伝いをしてくださったことと、魂柱のことを話せば必ずお母様もお父様もいいといってくれるはずですから」
「ではあなたの演奏だけ聴かせていただきます」
「あら残念、ご用事が?」
「ええちょっと」
滅多に現れることはないけれど、オオカミに持っていかれる前に早く森で例の鹿の骨を回収したいのだろう。
その夜の晩餐会、客人を迎え食事を終えた後にシャルロットの絵画のお披露目があるらしい。残念ながらラフィネさんの所用のせいで彼女の絵画を見ることは叶わないが。
デュボワ夫婦に挨拶をしてから、演奏が始まるまで大広間の隅で邪魔にならないよう演奏が始まるのを静かに待つことにした。
客人が集まりパトリシアさんが挨拶をし終えた後すぐにクロシェットさんの演奏は行われる。
「先生がわがままを言ったせいですよ」
「案外言ってみるものですね」
「はぁ…」
出掛けに森で見つけた鹿の骨を早く回収したい先生は、クロシェットさんの演奏は晩餐会の大トリなのだと聞くと「それは残念」と言って演奏を聴かずにお暇しようとしたので、彼女がなんとかスケジュールを調整して、シャルロットと自分のお披露目のタイミングを交換するという変更を行ってくれたのだ。
「もっと感謝した方がいいですよ」
「おや、もう演奏が始まるみたいですよ」
「まったく…」
ミモザのような淡い黄色のドレスを身に着けたクロシェットさんは集まった客人へ向けて一礼すると、例の魂柱が立てられたヴァイオリンを奏で始めた。
「…オンドさん、今のクロシェットさんの姿を見たかったでしょうね」
演奏の邪魔にならないよう小さく呟くと、身を屈めたラフィネさんが楽し気に耳打ちしてきた。
「見ているに決まっていますよ。それどころか今も一緒に演奏しているかもしれません」
改めてクロシェットさんを見ると、横でボルドーカラーのマーメイドドレスを着た妖艶な女性がヴァイオリンを弾いているように見えた。驚いて目を擦ってもう一度見直すと、もうそんな女性はどこにもいなくて。
「それに、あの強引なオンドさんのことです。彼女と共に演奏出来るまでは成仏しないと思います」
「そう…ですね。そうなのかもしれません」
その女性は見えなくなってしまったけれど、なぜかヴァイオリンの音色は二つ聞こえ続けたスヴニールだった。
クロシェットさんとオンドさんの不思議な演奏が終わると、ラフィネさんはそそくさと踵を返し屋敷を後にしてしまった。
最後に無理を言ってしまったことを謝罪しようと思っていたので、ラフィネさんが先に帰ってしまうことに焦った僕がその場で足踏みしていると、未だに拍手に包まれているクロシェットさんと目が合った。察してくれた彼女が優しく手を振ってくれたので、僕は深くお辞儀をしてから急いでラフィネさんの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます