第26話 それなのに
後にジャンティと出会い、ロン・ドルミールと名づけた骨董品店を開店。パトリシアの先祖にあたる初代当主や他の人間たちの依頼を受けるようになり、葬儀屋をやめることにした。それから何十年も後に殺人の疑いをかけられ牢獄に入れられた後も、ロン・ドルミールでの仕事を続けた。
この時にはもう、自分の重ねた年を数えるのをやめていた。
―――――
魔法使いにも人間にも情など持たない。人骨で作品を作ることを通して誰かに干渉はしても、干渉はさせない。
そう決めて生きてきた。それなのに
「…い、せん…先生」
顔を上げると、すっかり困りきった弟子がこちらの様子を気遣わしげに窺っている。
「少し…昔のことを思い出していました」
スヴニール。この子には少しずつ凍った心を溶かされている自分がいる。
そのわけはわからないけれど、スヴニール君には私のことを話したくなってしまう。今思い出していたことも、これまで生きて感じてきたことも。
「…一度だけと言いましたが、スヴニール君に出会うずっと前、アレテという女性にも祝っていただいたことがあります」
「その方は先生の…?」
子どもだと侮っていたけれど、スヴニール君はかなり鋭い子だということを忘れていた。
彼の確信めいた問いをはぐらかすように話題を変える。
「スヴニール君、今夜一緒に動物の死骸を探しに行きますか?」
もう一切れケーキを取り分けながら「え」とあからさまに嫌そうな顔をされる。
突然話題を変えたというのに、執拗に先の話について言及しようとはしない。無理に干渉してこないのがまた心地よかった。
「遠慮しておきます」
「プランスのモノクルを作ってから、創作意欲が掻き立てられて仕方がないでしょう。ここのところ凄く冷え込んでいますし、動物の死骸の一匹や二匹すぐにみつかりますよ」
それでも首を横に振るその体は硬直しているように見えた。まさか…
「幽霊が怖いんですか?」
ギクッと身を震わすスヴニール君。
「やっぱり」
「ち、違いますよ」
必死に強がる彼が可愛くて、もう少しからかってみる。
「おや、アトリエでまだお会いしていないのですか?」
「…は?」
笑いを必死に堪え、普段通りを装って続ける。
「夜中に作業をしていると、時々かつての依頼人が会いに来ますよ。「いくら何でもあの請求額は高すぎだったんじゃないか」などと耳元で囁かれます」
顔を引きつらせながら「またどうせ冗談なんでしょう?」と平静を装う彼をさらに追い込む。
「そうそうこの前なんてジャンティが驚かせに来て。積もる話に花を咲かせてしまいました」
握っていたフォークを手から滑らせ、青ざめるスヴニール君についに笑いが堪えられなくなる。
「からかわないでくださいよ。本っっっ当に幽霊とかそういうの無理なんです」
「はは、申し訳ない。ついね」
機嫌を損ね、顔を逸らしてケーキを頬張る彼。けど
「…でも、もっと数をこなしたいですし、セルメントからもらった彫刻刀も早く使いたいのでやっぱりついて行きます」
そうボソボソと話す彼が愛おしく思えて、そんな風に感じている自分に可笑しくなった。
「ダコー」
弟子なんて取るつもりはなかったのですが…。
彼なら私の夢を叶えてくれるでしょうか。
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