第22話 半魔法使いの立場

 半魔法使いとして生まれてしまった者に罪を課すかはまだ議論が交わされていた。それが決定されるまで、他の半魔法使いと共に氷山の麓の魔法騎士養成所に収容された。半魔法使いとして生まれた者に罪が課されることになれば、母親と同じようになる。もしも罪が課されないと決まっても、魔法騎士として訓練を受けさせ続けいつかの戦争で命を落とさせるつもりなのだ。いずれにしても、半魔法使いの扱いは酷いものであった。



「調子はどうかなラフィネ」



しかしそんな半魔法使いのラフィネを唯一気にかけてくれたのは、半魔法使いを魔法使いとして受け入れるべきだという考えを掲げたジョルジュという男だった。

 年端もいかない頃は殺された父親と粉々にされた母親を返してほしくて、ずっと彼を恨んでいた。それなりの年齢へ成長すると、あれはジョルジュの悪意ですらなかったことを知ってしまう。彼にとってあれはただの仕事だったのだと。

 この国ではそれが当たり前。半魔法使いである自分には、「それは間違っている」と訴える権利すら与えられていない。それならばもっと利口に立ち回ろう。

 ある日を境に、ラフィネは恨みを募らせるのをやめた。少しでも半魔法使いであるというハンディキャップを打ち消すために、魔法使いが嫌がることや面倒がること、どんなことでも利になる可能性があるならば何でもやった。

 物分かりのいいふりを続けていくうちに、ラフィネの心は麻痺していった。大切な人を失う、その悲しみや苦しみがわからなくなっていった。

 元々顔が綺麗で何かと使えそうだとラフィネに目をつけていたジョルジュは、ラフィネのそんな様子を見ていて彼を傍に置いておきたくなった。

 ラフィネを自分の政策に利用したいと考えたが互いに得しなければフェアではないからと、ラフィネにも「私を利用すればいい」と話していた。

 ラフィネは己の生まれ持った美貌と賢さに気がつき、すぐさまそれを武器に立ち回った。半魔法使いというハンデがまるで最初からなかったかのように、周囲の魔法使いは彼に惚れ込んだ。

 ジョルジュの同僚には可愛がられ、何でも欲しいものを与えてもらえた。王宮や商店街、どこを歩いていても、男女問わず誰もがラフィネをもう一目見るために振り返った。

 ラフィネは言われるままジョルジュの秘書のような真似をしてみたり、彼が近所の子どもに魔法学を教えることがあればその場に参加したりした。

 ジョルジュの手腕も大いに関係していたが、半魔法使いであるラフィネが傍にいたことが何よりも周囲に説得力を持たせた。それらが功を成し、半魔法使いへの罪は課すべきではないという判決が下された。

 それでも、魔法使いたちの心の根底には半魔法使いへの偏見や差別があり、就ける職は国のために死ぬ魔法騎士と、魔法使いの氷漬けを管理し罪人を葬るファントムに限られることとなった。

 ジョルジュに駆り出されない日、ラフィネは騎士養成所で生活していた。ジョルジュとはそれなりに気が合ったが、彼もラフィネもお互いを利用しているだけに過ぎなかったからだ。そのため、どちらの口からも一緒に暮らすなんて言葉は冗談でも出てこなかった。

 剣技の才の有無以前に、ラフィネは魔法騎士に向いていなかった。彼はいつも剣の先の方を持ち、掌に鮮血を滲ませながら石ころに意味もなく字や模様を彫っていた。酷い時は他が訓練を行っている最中であっても、それを横目に木を削り動物を作っては並べて遊んでいた。

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