Le passe d'Raffine ラフィネの過去
第21話 三歳の誕生日
アトリエのデスクに彫刻刀のセットを置いて朝食の席につく。
黙々と食べ進めていると、「一つ伺いたいのですが」とラフィネさんがクロワッサンを一口大にちぎる。
「スヴニール君、今日が誕生日だったんですか?」
「いえ、明後日です。セルメントには先月、来月十一になると話したので」
「そういうことでしたか」
その日はいつものように素っ気なかったし、僕も誰かに祝われるなんて思っていないから別段気にしていなかった。
だけど二日後、ラフィネさんは小さなホールケーキを用意してくれていた。
「ボナヴェルセール、スヴニール君」
二人しかいないから大きなケーキは焼けなかったと残念がる彼だけど、大小関係なく僕のために用意してくれたその気持ちが嬉しかった。ケーキだって生まれて初めて食べる。
取り分けられたケーキをフォークで一口大にして口へ運ぶ。甘すぎず、優しい舌触り。新鮮な木苺の酸味が効いていて、頬がとろけ落ちそうだった。
「美味しいです、とても」
「口に合ってよかったです」
「ラフィネさんもこうやって祝ってもらっていたんですか?」
素朴な疑問を口にすると、彼はフォークを持つ手を止める。でもそれは一瞬で、何でもないように微笑した。
「記憶に残っているのは、一度だけ」
細められた目は、どこか愁いを帯びていた。
―――――
ラフィネは幼き頃の自分と、そんな自分を取り巻く最低な環境を追想していた。
両親はラフィネを大切に育てていた。しかし人間である父親と魔法使いである母親が共に暮らすことは難しく、半魔法使いである息子の身の安全も考慮し普段は別々に暮らしていた。唯一ラフィネの誕生日の日にだけ、母親は彼を連れて人間である父親の家へ訪れていた。
ラフィネが三つになる祝いの日。父親が手作りしたケーキを家族三人で囲んだ。しかし、そんな幸せな家族の元へ、氷山の向こうからラフィネと母親をつけてきた半魔法使い取締役官がやって来た。家の扉を蹴破り、続々と部屋へと入り込む。ラフィネの目の前で人間である父親を殺し、母親に手錠をかけた。
「怨むなら、異種族で交わった汚らわしい両親を怨め」
母親の機転で魔法使いだと言われ育ったラフィネは、そこで初めて自分が半魔法使いであることを知った。
氷山の向こうにある魔法使いの国へ帰国すると、母親は生きたまま凍らされて小石大に砕かれた。
「よく見なさい。魔法使いに死罪は意味がない。体をバラバラにされ寒さと痛みに苦しみながら永遠に生きるのだ」
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