4話『晩餐』

「では、俺たちの再開を祝って乾杯!」

タツヤの掛け声と共に、5つのコップがテーブルの上でぶつかり合う音が響いた。

勢いで飲んだジュースはパイナップルみたいな酸っぱさがあり、それでいて滑らかな味わいがある。

今まで飲んだことのない味わいをしていると、目の前に料亭の店員が小皿と野菜が大量に入ったサラダが出てきた。

「こちら新鮮な野菜のサラダです。今持ってきたフォークで取り分けてください。」

店員が説明して他の席へ移動した後、すぐさまカエデが小皿に自分の分のサラダを入れていく。

「とりあえず良かったよ、ショウに会えて。」

カエデが口いっぱいに野菜を頬張りながら話しかけてくる。

幼稚園の頃からの幼馴染にして、俺の恋人だ。

「せめて口の中からにしてから喋って。」

俺がため息をつきながら注意している横で、タツヤがまあまあと宥めてくる。

「いいじゃねえか、知っている奴に出会えたんだし。お前に至っては彼女見つかったんだし。」

そう言いながらタツヤが肩をバンバン叩いてくる。

「頼んだ飲み物、アルコール成分でも含んでいたのかな?」

タツヤの向かい側の席でカエデが怪訝そうな表情を浮かべる。

愛想笑いを浮かべながら、全員分のサラダを取り分けていると、帽子を被っていた女の子、夏川由梨が口を開いた。

「あなたたちは、これからどうするつもりなの?」

ユリの不審そうに俺たちに聞いてくる。

「なんか魔王倒さないと元の世界に戻れないんだろ。だったら俺は魔王を倒しにいくつもりだ。」

俺の質問を聞いたユリが安堵の表情を浮かべる。

横でサラダを食べているローブを被った女の子の頭を撫でながら、ユリが喋り始める。

「あんたたちが渡辺たちと同じ考えのやつじゃなくて良かった。」

ユリの話を聞いたタツヤが嫌なことを思い出したような顔をした。

状況を把握できてない俺に、タツヤが説明を始める。

「2組にさ、セイジってやつがいただろ?」

タツヤが出した名前を聞いて、頭の中を探る。

多分、隣のクラスにいた渡辺清路のことだろう。

学内成績1位の天才で、生徒会長を務めているイケメン、普段から物静かな学年の頼れるリーダーみたいな存在だ。

「あいつがどうかしたのか?」

「あいつが皆集まった時に神に『魔王を倒されるまでこの世界で自由にしていいんですね?』って言っていたんだよ。」

タツヤが嫌そうな顔をしながら説明しているが、俺はいまいちピンと来ていない。

「別に自由に行動するのはいいんだろ?何か問題でもあるのか?」

「それならこっちを先に見せたほうがいいね。」

ユリがカバンから一枚の大きな紙を取り出す。

横に座っていたローブの女の子に手伝ってもらって、大きな紙を開いていく。

取り出された大きな紙には『速報:北東に1つのアサハラ王国が建立!』と書かれている。

「これって?」

「3日前の新聞よ。要するにこの世界で自由にするの規模を超えて暴れ始めているクラスメイトまで出てきているんだよ。」

そう言いながらユリが他の新聞を取り出そうとしている。

タツヤも信じられないと言いたげな表情でこちらを見てきた。

「お前これ知っていたのか?」

「ここまで自由にしている人がいるとは思わなかった。」

タツヤが震え声で喋っていると、ユリが机の上に別の新聞を広げる。

『謎の巨人襲来!9ヶ所の村が荒野と化す!』

『パーズ王国の城下町で謎の武器による惨殺!犯人は未だ捕まってない模様!』

『メジスト共和国に建てられたカジノの女王、カレン・サイハナに迫る!』

「これ全部、クラスの奴ら1人でやっているってこと?」

「なんならカエデも結構自由に動き始めてるしね。」

ユリが呆れた表情でローブを被った女の子と楓を交互に見る。

「神器もらったことでここまで規模のでかい被害起こせると思わなかったわ。」

「神器?」

ユリが俺を見て驚いた表情をする?

「蒼山、神器もらってないの?」

ユリの質問に首を縦に振り、カバンの隣に立てかけられている青銅の槍を見せる。

これしかもらってないと察したユリが頭を抱えながらカエデの立てかけてあった剣を持ち上げる。

「あのキュクロって人が作った武器とか装備、道具が神器になるらしいの。たとえばカエデのこの剣。」

ユリがサラダを食べ終えたカエデに剣を返す。

カエデが自信満々に鞘から抜いた剣の刀身は存在しなかった。

「それ、どうなってるの?」

「これが私のもらった神器の剣!かっこいいでしょ!」

カエデがにっこりと笑いながら自分の剣を紹介する。

持ち手の赤い装飾には目を見張るが、刀身がないからかっこいいかは分からない。

ふと、気になったことを聞いてみる。

「タツヤ、お前のあの白いダガーも神器なのか?」

竜也は一度首を振ると、腰から白いダガーを取り出した。

「このダガーは刺さった時に相手の時を止める能力があるんだって。」

「時を止める!?」

ユリが驚いた表情でタツヤの手元のダガーを見る。

剣を鞘に収めたカエデがタツヤのダガーを手にとって持っていたサラダの野菜に突き刺した。

カエデが手を離すと、ダガーは空中で野菜に刺さったまま中に浮いている。

「本当に止まっている・・・。」

カエデが宙に浮かぶダガーを見て目を輝かせている。

ユリとローブの女の子は驚いた表情でダガーを見ている。

「この能力強いな!俺もこのダガーなかったらイノシシに轢き殺されていたかもしれないからな。」

「へへ、そうだな。」

カエデからダガーを返されたタツヤはにっこり笑ってダガーをしまった。

「じゃあユリは?」

「魔法職には神器が与えられないって言われたわ。まあ別のもんもらったからいいけど。」

ユリは残念そうな表情でサラダを食べる。

「さて、神器の説明も終わったところで、この後の目標はどうする?」

ユリの質問にみんなを見回した後、俺は返答をした。

「他の場所にいる学校の奴らを集めながら、魔王を倒しに行こうと思う。」

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