第28話 矛盾

「我が離れに到着した頃、瓦礫に埋もれたと思ったらすぐに這い上がってきたのでな。身を隠しつつ、協力してもらうことにしたのだ。押収した甲冑の剣も利用させてもらった」

「最初から殺人鬼がいると知っていながら、毎晩皆に投票させる悪趣味な男に、協力するのはかなり気が引けたが仕方がなかった」

 アリアムは悔しそうに顔を歪ませる。彼の言うとおり、殺人鬼を野放しにしていたグレイエを僕も睨みつけた。


「ふっ、見くびられたものだな。私がこんな小僧に引けをとるほど老いたと思ったか」

「現に今追い詰められているのはどちらでしょうか。強がりはよして、降参されたらいかがです?」


 冷ややかにアリアムは言う。ノイは全く動じる様子を見せずに口角を上げた。


「何故私が捕まらずにここまでこれたと思う? 人を殺そうと決めてから数十年、どんな罪も免れてきた」

「それも今日で終わりのようだ」


 二人の視線がかち合った。お互いに煽るような口調で相手を挑発していく。しばらく止まった後、ノイが勢いよく後ろに飛び上がった。アリアムが向けていた剣先から距離を取り、彼は立ち上がった。背中を弄り、ナイフを一本取り出す。


「…………」


 しかしそれを僕らに見せつけるように床に落とし、もう一本ナイフを取り出した。


「こうすることもできるんだよ」


 そう言うと、一瞬でアリアムとの距離を詰める。剣先より内側に入り込んでアリアムの腕を勢いよく何度も叩いた。


「っ!」


 いきなりの衝撃にアリアムは剣を取り落とす。ノイは一気に体を反転させ、アリアムの喉元にナイフを突きつけた。


「さあ、手出しはできまい」

「さ、殺人鬼……!」

「そうやってみんなを殺したのね……」

「こちらにはアリバイがある。このホテルで起きた事件も、他に犯人がいることだろう」


 その言葉を聞いて考えてみる。確かにノイはエルの殺人に関してアリバイがあったはずだ。


「そんなもの、すぐ崩せる。無いようなものです」


 アリアムは得意そうにそう言う。僕はどうして彼がここまで余裕を持てるのかわからなかった。


「でも僕は、アリバイに納得しています。いったいどのようにエルさんは亡くなってしまったのか」

「じゃあ問いましょう。このホテルの創立記念日は?」

「は? いきなりなんだ」

「まあまあ。ホテルのロビーにデカデカと書かれていたじゃないですか。お忘れですか?」

「ロビーには受付不在のパネルがあったのだから、普通はそっちに目がいくだろう」

「……?」


 アリアムが何を言いたいのかはわからないが、僕は今のノイの言葉にすごく違和感を感じた。


「受付不在のパネル? 僕は一度も見ていません」

「そう。ボアさんとお嬢様は見ることができない。なぜならそのパネルは、私が瓦礫に埋もれていた騒ぎの間だけ立っていたのだから」


「!」


「受付にいたホテルマンの男性が瓦礫の様子を見るために、その場を離れる間に立てていたパネルです。どうして屋上にいたはずのあなたがそれを知っているのでしょうか?」

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