第21話 瓦礫
「ロスコさん、……ロスコお嬢様!」
「っ!」
やはり、聞き間違いではなかったようだ。彼女はアリアムからお嬢様と呼ばれていた。
今僕の腕の中にいるロスコこそが、アターセブス家のご令嬢なのだろう。なぜ手伝いのふりをしていたのかはわからないが、今は話を聞いてもらうのに必死だった。
「今近づけば、確実に巻き込まれます」
「でも、アリアムが私の……っ!」
「彼を助けるために人を呼びましょうっ、立てますか?」
差し伸べた手にそっと手が添えられる。その手を引いて、僕は走り出した。後ろを振り返ると、建物はガラガラと音を立てて崩れている。
「…っ!」
どくどくと心臓が鳴る。どうか、どうか助かりますようにと心で何度も祈った。
ロビーにつき、僕は大きく息を吸った。できるだけ広範囲に声が届くように、多くの助けを得られるように。
「誰か!!! 手を貸してください!!!!」
ロスコさんも声を上げてくれている。
「どうした?」
声に驚く様子こそなかったが、すぐにグレイエが現れた。僕は事情を話すと、先に行っているとだけ告げてその場からいなくなった。僕の声に気がついて、集まってくれた人を引き連れて瓦礫の場所へ向かう。完全に止まった瓦礫の前に、グレイエがただ立ってこちらを見ていた。
「グレイエさん! アリアムさんは!?」
「何度も呼ぶが返事がない。瓦礫も動かすことは難しそうだ」
残念そうに彼がそう言うと、ロスコさんが小さく悲鳴を上げてしゃがみ込む。倒れ込まないようにゆっくりと座らせて、僕は瓦礫の前に立った。
「何をするつもりだ?」
「僕は諦めきれません。退かします」
「やめたまえ。不用意に触れば怪我をする」
「それでも構いません」
僕は目の前の瓦礫を逃そうと手で持ち上げた。それはびくともせず、一気に不安がのしかかる。それだけのものが体に乗れば、助からないことは分かった。きっと退かすことができても、アリアムはもう手遅れだろう。
「っ……!」
「お、お手伝いします」
トグアビさんが手を貸してくれる。それをきっかけに人だかりが少しずつ近づき、僕の手元の瓦礫に手を添えた。
「せーので行きますよ」
やがて全員が瓦礫を持ち上げようとする。しかし瓦礫は一ミリも動くことはない。まるでそこに施工されたように、びくともしなかった。
「そんな……」
「都心部の工務屋なら退かす術を持つかもしれないが……」
「それでは遅い……」
僕はその場にしゃがみ込んだ。身分を偽っていたとはいえ、彼のことがとても気に入っていた。彼の推理力のようなものに頼り、信頼していたのだ。長く連れ添った仲間のように感じることさえあったほどだったというのに。
「応援を待つしかあるまい。助けられずすまなかったな」
日も落ちてきて、瓦礫をどかそうとするのはやめることになった。僕はなんとか立ち上がり、ロスコの側にしゃがむ。彼女は呆然としながらもゆっくりと僕の方を見た。
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