第20話 門外不出

「うわ……これはひどいな」


 本の途中は何かに抉られたようにごっそりと無くなっていた。手に取った記録書が一冊目で、そこから同じ背表紙が並んでいる。少し飛ばして、綺麗な背表紙のものを手に取った。あまり古すぎる情報を得ても、活かせないと思うからだ。


「…………」


 そこには二十年前の情報が書かれていた。


 “ダーズリンホテル名称変更について 門外不出”


 そこにはダーズリンホテル、と書かれている。ダーズリンといえば、真っ先に思い浮かぶのはグレイエ・ダーズリンだ。なぜホテル自体がダーズリンという名前なのか。そしてなぜ名前を変えたのか、僕はそのまま読み続ける。


 “晩春の頃、都が賑わう傍で、このホテルで奇妙な現象が確認されるようになった。従業員や旅客の不審死や怪我などの報告が上がっている。ダーズリン公の功績を称えたホテルであったが、この現象によりダーズリンの名誉を損なわないよう、名称を変更することとする。また、昨今の誤った情報で誤解を生まないよう、発表は慎重に執り行うものとする”


 最後の一文だけ引っかかったが、経緯はなんとなく理解できた。晩春の頃、つまり今のような時期に、人の命が失われるようなことが過去にもあったのだ。それは今僕に起こっていることにも関係しているのか。


 ゴゴゴゴ……


「!」


 突然、変な音を鳴らしながら天井が揺れる。僕は上を見ようとしたが、天井の欠片が落ちてきていて、慌てて下を向き目を覆った。


「アリアムさん!! ロスコさ……っげほ!」


 薄目で周りを見渡す。砂埃が舞っていて視界が悪い。彼らの姿は見えなかった。


 ガララッ!!


 途端に大きな音を立てて天井が崩れ始めた。僕はなんとか隙間を縫って飛び出す。振り返ると、ロスコのスカートが見えた。助けようと必死で走り寄る。


「二人とも、早く!!」


 建物はほぼ倒壊している。一瞬の猶予もなかった。二人の姿が見えるのと、その体が瓦礫に覆われるのは同時だった。


「お嬢様っ!!!!」


 安全な場所に追いやるように、ロスコの体が僕の方へ押される。一瞬も立たないうちに、彼の体はそのまま瓦礫に飲まれていった。


「アリアムさん!!!」

「アリアムっ!! アリアム!!!!!」

「ちょっと、危ない!」


 瓦礫に突っ込んでいく小さな体を慌てて引き戻す。彼女の目には積み重なった瓦礫しか写っていないようだった。僕もアリアムさんの名前を呼んだが、返事は返ってこない。背筋が凍りついた。建物は今が倒壊し続けており、うまく近づくことすらできない。地上へ早く出なければここも危ないかもしれない。


「離して! アリアムが!!!」


 必死にもがく身体を抑えて聞こえるように大きな声で言う。この呼び名が、彼女を冷静に戻せると期待して。


「ロスコさん、……ロスコお嬢様!」

「っ!」


 途端に彼女の動きが止まった。

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