第16話 面会
「僕らは今、命の危機にさらされています。それをどうにかするために僕らは動かなければならない。普段通りの仕事やルール内の行動をしていては、また犠牲者が出るでしょう。僕らの意思で、未来を変えなければなりません」
「…………」
「あなたが人に料理を振る舞う時と同じです。どのようにすれば一番いいものが作れるか、食材や業者、そして手段を選ぶことと、今僕たちがどのようにして真実に辿り着こうかと考えるのはそんなに違わないと思います」
本気でこの最悪を止めようと思い、動いているということをゆっくりと彼に伝えた。彼はだんだん僕の目を見て頷いてくれるようになる。やがて話し終えた時、彼は大きく息を吸った。
「あ……えっと、……すみません、話すのはあまり上手、じゃなくて。僕はこれから、ロキオズさんのもとへ向かいます。えと、食事……を運びに」
「……その役目をお譲りいただけませんか?」
長考の末、彼は小さく首を縦に振ってくれた。アリアムはほっと息を吐いて僕を見つめる。とりあえず第一関門は突破したようだ。数分も立たないうちにプレートに乗せられた食事を彼が用意してくる。
「これを、ろ、ロキオズさんへ」
「ありがとう、本当に感謝するよ」
お辞儀をしてから僕たちはトグアビさんから聞いた場所へ足早に向かった。運良く誰にも会わずにそこに辿り着くことができる。
ノックをすると、どうぞ、とだけ短い声が聞こえた。
「どうもこんにちは」
「あなた方は……! なんということだ、うちの従業員はお客様に何をさせているんだ……!」
僕たちを見た瞬間彼は驚き、従業員たちへの怒りを見せる。本来もてなす対象であるはずの相手が自分の食事を運んできたのだから無理もない。この反応は予想できていたので、僕は頭で考えていた言葉で伝えていく。話をするうちに、だんだん彼は落ち着いて行った。
「ロキオズさんとどうしてもお話がしたかったのです」
「そう……でしたか。取り乱してしまい、申し訳ありません」
「とんでもないです。時間もあまり取れないので手短に話しますね。……食事の前で申し訳ありませんが、昨晩から今朝にかけて、また死人が出ました。おそらく、他殺です」
「えっ……。今度は誰が?」
「昨晩給仕をしていた男性だ。名札には“ピッテ”と書かれていた」
「ピッテが……どうして。彼を恨む人なんているはずないのですが……。とても気の良い者で、みんなから好かれておりました」
「そうでしょうね、僕も昨日彼と話をしましたが、嫌な気は一切ありませんでした」
「ありがとうございます。旅客からの評判もとてもよかったのです。だからなぜ、こうなってしまったのか……」
「ええ。それに遺体に不自然な点もありまして」
「不自然な点?」
「ああ。手には金粉がついていて、何かに驚いたまま死んだようだった」
「そ、それは……奇妙ですね」
アリアムの言葉を聞いた瞬間、彼の表情が僅かに曇った気がする。アリアムは気が付いていないようで、僕はそのまま話を続けた。犯人を突き止めるまで、グレイエがこのホテルから人を出入りさせないと決めていることも話しておく。
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