第9話
・
欲しかったって、何が。
事務のエキスパートが欲しいと言われた、と総務部課長が言ってた。
という事は大野部長はその辺が苦手、とか?
え?でもただ書類作成とかだけなら誰だって出来るでしょ。
一応とはいえ役付きの私を異動させなくたって。
仕事にはプライドを持ってやってきた。
もし誰でも出来る程度の仕事なら、早々に異動願いを出してやるわ。
「ぶっちゃけ言うと、人が足りないんだよね」
「はあ」
専門部署で人材不足なんて、どこの会社でも同じで特段珍しいことでも無い。
しかも即戦力になる人材なんて。
なのになんで私が選ばれたのか。
「俺ね、本当は部長なんて出来る器じゃなくて」
「・・・」
いやいや、あなた。
うちの社史上最速で部長になったでしょ。
普通、32で部長とかありえないから。
「聞いてる?」
はいはい聞いてますよ。
「でも大野さんの部長就任には社長直々の推薦があって、幹部からも反対意見は殆ど無かったと聞いてますが」
「あれは社長にだまされたの!
俺ね、技術出身なんだけどうっかりデザインとかまで手ぇ出しちゃって、それを社長に見られてトップダウンで商品化になったんだけど」
「・・・すごいですね」
普通は社内コンペがあって散々競合して、一応決定してからも採算の関係でやり直し!なんて事も少なくないのに。
「で、それが売れちゃって」
「・・・」
あの。自慢話、に聞こえて来るんですけど。
でも、部長の顔を見れば苦虫を噛み潰したような表情だ。
「次の商品の企画デザインにも参加とかなってさ。でも、技術の仕事もあるじゃん?
最初は物珍しさが勝って色々細かいとこまで考えるのも楽しかったけど、企画デザインてただお絵かきすりゃ良いってもんじゃねえし
会議だって何回参加させられたか!
だから俺、そんなに全部は無理だ!って社長に訴えたんだよね」
「はあ・・」
「そしたら、あの社長『じゃあ、お前昇進させるからお前の技術は部下に継承して仕事を部下に回せ。そしたら時間出来るだろ』とかなんとかさ。
知ってる?俺、係長からいきなり部長になったんだよ?部長が定年だからって」
「ああ、それ知ってます。さすがに社内に衝撃が走ってましたよ」
「んでも、社長の言葉を鵜呑みにしてた俺は、でもこれで少しは時間が取れるかもとか思って。・・・甘かったよねー」
はあ、と息を吐いた部長は、残っていたビールを一気に空けた。
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最初で最後の彼 ~業務連絡いたします!スピンオフ~ 月湖 @tukiko
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