第7話



「みんなー、2分で終わらせるからちょっとだけこっち向いて・・るか(笑)」



大野部長が言ったとおり、ここにいる全員がこちらを見ていた。

皆さん、突然入ってきた私を見てるんだと思うけど。



「前から言ってたと思うけど、新しい仲間だよ。総務に直談判して引っ張って来た齋藤係長。来週から勤務だから、みんなよろしくね」



部長がそう紹介してくれて、室内に「ああ」って雰囲気が広がる。



「齋藤ゆき乃と申します。

大野部長が仰った通り一応係長ですが、ずっと事務系で専門技術は殆ど分かりません。1日でも早く皆さんに追いつくべく精進します。

よろしくお願い致します」



私が挨拶すると直後に「よろしくお願いしまーす」と其処此処から声が返ってくる。

受け入れられてる感じがして嬉しかった。

まだ不安は大きいけれど、モチベーションは上がった。

うん。本気で頑張ろう。



「よし!じゃあ解散!」



私の決心と同時、大野部長がそう言うと、室内の全員が「お疲れ様でしたー」と部屋を出て行く。

5分後には、あれ?今日ってノー残業デーだっけ?ってくらい見事に誰も残っていない。

いや、残業が無いのは良い事なんだけど。



「すごいですね、仕事残さないんですね」



総務にいた頃はほぼ毎日残業だった。

まあ、全部署からの伝票が揃うのが16時半だから、仕方が無いといえば仕方が無いのだけれど。せめて16時にしてくれと言っても聞いてもらえなかったなあ。



「ここは品質管理にしろ、技術、設計にしろ集中力がモノをいう部署だからね。

余程ヤバくならない限りは残業させないよ。

齋藤さんもそのつもりでいてね」

「・・はい」



話す雰囲気から優しそうな人だと思っていたけど、実は厳しい人なのかも。

残業しない、じゃなくて残業させない。

つまりは、今日の仕事は定時までにキッチリ片付けろという事で。

これは本当に気合を入れなくちゃと、無意識にゴクンと喉を鳴らしてしまった。



「って事で、俺も終わり。

で、齋藤さんさ、もしこの後時間あったら俺とご飯行かない?

ちょっとだけ話そうよ」



私の思いも他所に、大野部長はニコニコと誘いを掛けてきた。



「入ってきた時、納得してない顔してた。何で私がって思ったでしょ?

その辺もね、ちゃんと話そうと思うからさ」



・・・やっぱりこの人、少し怖い人だ。


それでも。

会社の決定だからと無理矢理納得させた心に残るモヤモヤが、大野部長の言葉で晴れるのならと



「・・・お供させて頂きます」



突然のお誘いに頷いた。

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