第5話
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総務部でも大野部長は大人気で、私の異動を知った同僚の女性陣は仕事をしながらも何かあっちゃ口々に「係長いいなー」を繰り返す。
その言葉に飽きてきた私は若干イライラと『だったら替わってくれていいんだけど!』と心の中で叫ぶ。
ホントに叫んだら角が立つからね。
「イチから全部仕事覚えなきゃいけないと思うと憂鬱だけど」
このくらいで返しておけば女の子達も「それはそうですけどー」とさっきまでのテンションが少し下がって書類作成に集中してくれる。
はあ・・・。
本当に憂鬱。
私がそんな事を考えてたって日々は着実に過ぎて行き、あっという間に6月は終わってしまった。
「課長、お世話になりました。
私を生産管理に売ってくれた恨みは必ず晴らさせて頂きますからね」
6月末日の終業時、そう課長に挨拶すると
「優しい齋藤さんはそんな事しないだろ。ああ、餞別に一個情報あげるよ。
大野部長、ああ見えて結構変わり者だから、頑張って」
「役立たずで返品されたら受け取ってくださいね」
「まあ、無いと思うけど了解だ」
へらへら笑ってる課長に、では失礼しますと一礼して、5年いた総務部を出る。
そのまま帰ろうと思っていたけど、こんな、完全に定時で上がるなんて事に慣れなくてエレベーターの前でしばし考えた。
「・・・」
生産管理部は総務部の上の階にある。
ちょっとだけ、覗きに行こうかな。
週明けから勤務する職場の様子を見たいという思いもあって、私は、まだ何も押していなかったパネルの、上ボタンを押した。
属する課が多いので5階の全フロアを生産管理部で使っている。
エレベーターを降りると、丁度乗ろうとしていたのか男性社員が扉の前に立っていた。
この人は見た事がある。えーと、・・・確か・・・技術課の宮川くん。
もう帰るのか、鞄とジャケットを持っている。
そんなところで悪いけど、ちょっと声を掛けさせてもらおう。
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