第22話 Cランクハンター活動記(2)

 謎の男涙を拭った俺はセンビが温め直してくれた朝食を食べる。

 センビの手料理は二日酔いでもペロリと完食できるほど芸術的な美味しさだ。


「なるほどのぅ。ハンターギルドか。一人で挑むためにコソコソ家を出て行ったんじゃな。そうならそうと言えばよいではないか」

「まぁそれはごもっともだけどさ、なんか申し訳なくて」

「そんなこと気にせんでいいんじゃ。ナナセはしたいことをしておればよい。できればわっちかリシュルゥを連れて行くべきじゃがな」


 確かに、ハンター活動をするにしても俺一人でというのは危険かもしれない。誰かと一緒に行くべきか。


「それでハンターのクエストとやらはいつ受けるんじゃ?」

「そうだな、まずは商会の方が始まってからだろうな。俺も早いとこ転移門を仕上げなきゃだし。あと一日か二日で転移門の試運転まで行けそうなんだ」


 陸路で行けば1ヶ月はかかる場所にある天球礼拝地。そこに商会を出店するには俺の転移魔法が必要不可欠。しかし毎回毎回俺が転移して物を行ったり来たりさせなきゃいけない。店員さんも気軽に行き来できないだろう。もし、俺が今回のように酔い潰れて予定の時間に転移作業ができないとなると信用問題になる。


 だからこそリシュルゥが持つ魔導力機工学の知識を駆使して、俺の転移魔法を刻み込んだ魔動力機を作ることは急務。ハンター試験で俺は十分息抜きができたし急ピッチで仕上げるとするか。よし、頑張るぞ!


 


 転移門は一日か二日で完成すると見込んでいたが、たっぷり二日かけてようやく試運転ができる状態になった。場所はビッグマム商会が保有する巨大な倉庫の中だ。千年京に一つ、そして天球礼拝地の倉庫に一つ。二つを作り同期させるのはかなり手こずった。ほとんどリシュルゥの知識ででき上がったたわけで、リシュルゥには頭が上がらないな。


 三メートル四方の床には魔力伝導率の高い素材をたっぷり使用している。素材はほとんど天球礼拝地から買い付けてきた物だ。値は張るが手に入りにくい物がすぐに手に入るのはとんでもないことだと思う。今までは買い付けに数週間かけていたわけだし。


 横にある台座のような物が起動スイッチだ。


「転移門ってコンセプトで作ったけど、これじゃ転移床だな」


 かっこよくてファンタジー感のある門を作るつもりだったが、リシュルゥに設計してもらったら床になった。リシュルゥいわく、門の形状で作れなくもないが床の方が魔力効率がいいとのこと。設計図を作ってもらったらなんとなく組み立て方が理解できた。俺の転移魔法を刻み込むのにも結構苦労したが、安全性の高い転移門が完成したと思う。


「試運転はばっちりだったし、実用試験だな」




 翌朝、千年商会出店責任者のビッグマムとギエンじいにご足労願った。

 実験として馬車やら実際に販売予定の品物を数十箱用意していただき、実際に転移門に乗せる。


「使用方法は簡単です。この台座がスイッチになっているので、手をかざして魔力を少し送ってください。一般的な魔導力機と同じです」


 台座に魔力を流すと床が淡く輝き、ゆっくりと点滅を始める。


「起動すると床が光ります。そしてゆっくり点滅を始め、点滅が速くなります。これが転移のカウントです。起動からちょうど十秒で転移するように設定してます」


 点滅が加速して一際強く光った。一瞬にして積み上げた木箱が消える。


「おお、こりゃすごいね。本当に消えちまったよ」

「遥か遠くの聖地まで一瞬で移動したということですかな?」


 ビッグマムもギエンじいも驚きを隠せないようだ。

 俺が転移門を作ると言った時も半信半疑だったし、魔法で溢れている世界といえども転移魔法の使い手はめったにいないらしい。


「注意して欲しいのは、向こう側の転移門になにかが乗っていると、転移門が赤く点滅します。現在向こうの転移門には今送った木箱が乗っているのでこの転移門が赤く光っています。赤い時は決して近づかないようにお願いします」

「そういう仕組みかい。わかったよ」

「わかりやすくてよいですね」


 たくさんの木箱を転移させることには成功した。次は向こう側に行かなきゃいけない。ここの転移門は使用できないので自分の転移魔法で転移する。

 天球礼拝地の転移門前に転移するとしっかり木箱がそのままの配置で転移されていた。木箱の中をチェックしても損傷はない。衝撃なく転移できてるな。


 天球礼拝地側の転移門を起動して、木箱と一緒に俺も床に乗って転移する。自分の魔法で転移する時とは少し違う感覚だ。木箱と人間が同時に乗っても問題なく転移門は作動した。


「という感じで人も物も同時に転移できます。これからはこの転移門を活用してください。あと、この転移門の存在はできる限り外に漏らさないように」

「そりゃ当然さ。こんな代物を作れる魔法使いがいると知れればどうなることか。倉庫の従業員は千年京の住人で固めるつもりだよ」

「それ以外の従業員はワシが現地で集めることにしよう」


 これで不安は払拭された。定期的にメンテナンスする必要はあるが、気軽にいつでも都市間を行き来できるようになったんだ。聖地出店計画はほとんど終わっている。俺にできることはもうない。商会の方はビッグマムとギエンじいに任せて俺はハンター活動に力を入れるとしよう。


 

 

「雷閃衝!」


 腰のあたりで構えた手のひらに溜めた魔法を撃ち放つ。雷を帯びた障壁が風を押し除け突き抜けた。リシュルゥは食い入るように魔法の軌跡を見つめている。


「これが新しく覚えた魔法だ。ハンターのルーズベルトさんっていう大盾使いの人が使ってた魔法を少し変えてみたんだ。元は風属性の空圧衝って魔法だったんだけどさ、雷にした方が威力が出ると思ってな」


 千年京のはずれにある平野。俺とリシュルゥはいつもここで魔法の修行をしている。最近は転移門作りであまり修行できていなかったが、本格的なハンター活動を始めるにあたって鍛え直すつもりだ。


「もう新しい魔法を……」

「はは……なんか見たらわかるんだよな。あ、でも激流槍っていう水属性の魔法を見たんだが、こっちはどうも再現できないんだ」

「それは多分属性が違うからだと思う。属性ごとに基本構造が異なっているから、風属性のやり方じゃ水属性の魔法を構築できない」

「属性魔法って複雑なんだな」


 鮫兄弟が使用していた激流槍という魔法は、貫通力のある槍型の魔弾を撃ち出す魔法だった。それも一度に複数展開できていた。あれを再現できれば使い勝手がいいと思ったんだがな。


「水属性の魔法を覚えるには、水属性の基礎となってる魔法から始めなきゃダメ。私は風属性しか使えないから水属性が使える人を探して基礎から教えてもらうしかないと思う」


 風属性、そして風属性から派生している雷属性の魔法なら見ただけで習得することができるのだろう。他の属性はまず基礎となっている魔法の練習から始めなきゃいけないんだな。しばらくは風と雷で戦うしかない。

 あと俺が使えるのは……。


「勇者の力……魔力を喰らう魔力……か」


 俺の身に宿っている勇者の証。

 意識すると簡単にスイッチが切り替わる感覚がして、魔力が勇者モードになる。

 俺の手のひらの上には黄金の炎が輝いているが、これはいわば力の塊をただ出している感じなんだ。この黄金の炎は魔法ではなく、魔力。


「これを剣に纏わせるだけじゃなくて、魔法みたいに使えると思うんだがなかなかできないんだよな……属性魔法と同じで勇者の力で魔法を構成するには独自のやり方があるのかもな」

「きっとそう。わたしでもせんせぇのその炎は解析できない。炎属性とはまったく違う在り方だから、勇者の人の魔法を実際に見るしかないよ」

「勇者か……」


 リシュルゥから風属性の基礎を教わったように、勇者から勇者の力の基礎を教えてもらわなければ先に行けない気がする。俺ではこれ以上の使い方を思いつけない。

 だからといって勇者軍のやつらと顔を合わせるのはごめんだ。俺がいた八十八番隊以外にも数多くの部隊があるんだろうが、仲良くやろうなんて俺の心が許さないんだ。どこかに俺みたいなはぐれの勇者がいればいいんだけどな。

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