2話
〈えっ、めっちゃ可愛い!〉
〈なんでこんな場所に美少女がいるの?〉
〈海外の子かな? 日本人ではなさそう〉
〈やばい、これは反則級に可愛すぎだろ〉
コメント欄の言う通り謎の女の子は、同性でも見惚れてしまいそうなほど綺麗だった。銀色の髪が闇の中で光を反射し、長いまつ毛が影を落としている。陶器のような艶やかな肌は一段と美しく見えた。
「ねぇ、大丈夫?」
謎の女の子はゆっくりと目を開くと、虚ろな目で葵を見つめる。
「$##%&’&%&&」
謎の女の子から謎の言語が飛び出す。えっと……英語じゃないよね?
〈やばい、聞き取れなかった〉
〈誰か翻訳を頼む〉
〈どなたか言葉の先生はいませんか?〉
女の子は小さく唸ると、不思議な呪文を唱えた。
「解読魔法・発動」
女の子は可愛らしい声で咳払いをすると、鈴が揺れるような心地よい声で自己紹介を始めた。
「私の名前はセリナ。言語翻訳の魔法をかけたのでもう大丈夫ですよ」
〈すげー分かる。言葉が分かる!〉
〈何その魔法? やばすぎ、今度の英検で使いたい!〉
〈魔法って便利だな~〉
〈その魔法教えてほしい!〉
〈ところでこの子は何をしていたのだろう?〉
〈確かに気になる。1人でいたら危なすぎでしょ!〉
「えっと……初めまして葵です。今、ゲートの向こうからきましたよね?」
葵の質問はまさに視聴者も疑問に感じていた事だった。セリナと名乗った少女は考えるそぶりを見せると、ぽつりぽつりと話し始めた。
「ついさっきまで魔王と戦っていたら、謎のゲートに飲み込まれて……気がづいたらこんな場所にいました」
「魔王? もしかして勇者なの?」
「はい、一応……」
あまりにも予想外の話に葵はポカーンと口を開けてセリナを凝視する。でも、その口調は本気でとても嘘をついているようには見えない。
「あの、ここはどこですか?」
「えっと……日本って分かる?」
「聞いたことがありません……」
「じゃあ、地球は?」
「……………分かりません」
セリナの口調はやはり真面目で、からかっているようには見えない。ただ、それよりも気になるのが……
「あの……よければこれを使って下さい」
葵は羽織っていたパーカを脱いでセリナの肩にかけてあげた。どうやらついさっきまで戦っていたのは本当らしく、ところどころ服が破けていて痛々しい……
〈えっ、葵ちゃん、パーカーの下ってキャミソールだったよね⁉︎〉
【800円】〈ありがとうございます!〉
【500円】〈露出だ、これは神回だ!〉
【1300円】〈ご馳走様です!〉
【2000円】〈あ~ これはHですね〉
コメント欄に気づいた葵は、慌てて胸元を手で隠すと、むすっとした目でドローンを見つめた。
〈葵ちゃんの照れた顔かわいい!〉
〈むすってしているのもいい!〉
〈愛ちゃん、ボーイッシュな感じだけど、そういう仕草は女の子だね〉
〈程よい大きさなのがまた良き〉
〈むしろ葵ちゃんの胸は控えめで好きだな~〉
「ねぇ、今はそれどころじゃないでしょ? カメラ止めるよ? あと控えめって言ったの誰? ブロックするよ!」
〈ごめんなさい。調子に乗りました〉
〈許して下さい、どうかそれだけはやめて下さい!〉
〈もういいません。ごめんなさい〉
葵が視聴者と話していると、セリナが不思議そうに首を傾げた。
「あの、葵さんは誰とお話ししているのですか?」
異世界から来た彼女は当然ダンジョン配信は知らない。そもそもここがどこかもよく分かっていない。疑問に思うのは当然だ。
「えっと、なんて説明すればいいのかな? セリナさんが住んでいた世界とは違ってここではダンジョンを攻略する様子をみんなに見せるのが流行っているの」
「攻略の様子を見せる? 闘技場で戦士が戦うのを観戦するようなものですか?」
「そうそう、そんな感じ」
「でも、魔物が暴れ出して民が危険に晒される事もありませんか?」
「もちろんあるよ。そうならないためにも頑張らないとね」
事例は少ないけど、ダンジョンから逃げ出した魔物が街で暴れた事件は何度かあった。だから国もダンジョン配信をしながらでも、魔物を倒す人には口を出さないのが暗黙の了解となっている。
「なるほど、分かりました。どうやらこの世界にも魔物がいて悪さをしているのですね」
セリナは自分に言い聞かせるように呟くと、覚悟のこもった目ではっきりと宣言した。
「葵さん、私は勇者として困っている人を助けなければいけません。たとえ世界が違っても魔物は見過ごせません! どうか私にもダンジョン配信をやらせて下さい!」
【3000円】〈まじか! 勇者がダンジョン配信するのか⁉︎〉
【2500円】〈これは面白くなってきたな!〉
【6000円】〈えっ、ガチ勇者が参戦したら、他の配信者は勝てなくね?〉
【5000円】〈さすが勇者、責任感が違う!〉
【2000円】〈これは面白い展開だ!〉
【4000円】〈コラボ配信をするって事? 楽しみ!〉
コメント欄も大いに盛り上がり、スパチャも飛び交う。当然葵の答えも決まっていた。
「もちろん! 2人なら絶対に上手くいくよ! これからよろしくね、セリナちゃん!」
「はい! こちらの世界のことは何も分かりませんが、戦いには自信があるので頼って下さい!」
こうして葵とセリナのコラボが決まった。でもこの時の葵はまだ知らなかった。勇者との配信は予想を遥かに超える大人気となり、後に世界の存続をかけた壮絶な戦いに巻き込まれることを……
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