第6話

「なんだ、もうすぐドレッドが戻ってくるのか…。しばらく帰ってこないと思っていたのに、今回はやけに早いんだな…。ったく、うっとうしい…」


非常に態度の悪い一人の男性が悪態をつきながら、お屋敷の中の廊下を歩いていく…。

実は私にはもう一人、家族と言える人が存在していた。

アリシラ・アーレントにとっては二つ上の兄にあたる、ケルン・アーレント様だ。


「お兄様、せっかくお父様がお帰りになられるのですから、快くお出迎えされてはいかがですか…?」

「お前は相変わらずドレッドの味方らしいなアリシラ。いいよなお前ばかり可愛がられて。この間もそれなりの宝石を買えるくらいのお小遣いをもらったんだって?ったく、俺にも少しは恵んでほしいもんだぜ」

「(わ、私とお父様ってやっぱりそういう関係なんだ)」


まだ直接お父様と話をしたことがない私は、その関係については探り探りの状態だった。

しかし他の人からの話を聞く限りでは、お父様は私の事を相当溺愛して目をかけてくれているらしい。

しかしそれとは対照的に、お父様はケルンお兄様にはあまりいい印象を持っていない様子で、二人の関係はかなり険悪なものになっているように感じられた。


「おいターナー、ターナー、いないのか?」

「はい、ただいま…」


お兄様はそのまま執事であるターナーを呼び出すと、やや不機嫌そうな表情を浮かべながらこう言葉を告げた。


「ブレーブ商会の令嬢に、可愛いやつがいたよな?今度家に遊びに行きたいから、話を通しておいてくれ。ドレッドが戻っている間俺はそっちでお世話になることにする」

「お、お考え直しくださいケルン様…。お父様はもうかなりケルン様にご立腹のご様子です…。これ以上ご関係を悪くされるような事をされるのは、お互いのためにならないことと思えてなりません…」

「お互いのため…?」


まるで二人のことを思って言っていますという雰囲気を醸し出すターナーだったものの、その真意が別にあるであろうことをお兄様は瞬時に見抜く。


「そんなことを言って、お前はただ自分の仕事を増やしたくないだけだろう?いつも適当にしか仕事をしていないんだからこういう時くらいせこせこ働いたらどうなんだ」

「わ、私はそんなつもりは…」


たぶん、お兄様の分析は当たっている。

ターナーは二人のことを思って言っているのではなく、本当に自分の仕事を増やしたくないがためにそう言っているのだろう。


「ならはやくしろ。こうしている間にも向こうの予定を先に取られてしまったらどうしてくれるんだ」

「ケ、ケルン様…。そもそもケルン様は以前に関係を深められていた、ルノー侯爵様の娘様であるエリッサ様と言う方がいらっしゃるではありませんか。向こうはケルン様にかなり好意的な印象を抱かれているご様子でしたよ?」

「あんなものその日限りの関係に決まっているだろ。低級の貴族令嬢に好意を持たれても迷惑なだけだ。…まぁ俺にとって都合のいい関係になってくれるというのならそれでもいいが、ああいう固い性格の女は決まってそういう関係を嫌うからな…。もったいない…」


…とまぁ、これが私のお兄様の本性だ…。

見てわかる通り、私に負けず劣らずの悪役令息っぷり。

噂で聞く限りでは、貴族家としての立場を利用し、手を出せる限りの若い女性たちに手を出しまくっており、その関係に飽きるや否や一方的に関係を切り捨ててすべてなかったことにしてしまうらしい。

でも容姿はすっごくかっこいいから、悪評がとどろく中でも本気で恋をしてしまう女の子もよくいるらしい。

ただこれもまた、最後には手痛いざまぁをくらう臭いがプンプン感じ取れる…。


「お兄様、私からもお願いです。お父様と一緒にお話ししてください。私はお二人が仲良くされているところを見たいのです」

「やれやれ…。そういう風に言えとドレッドから言われているのか?俺がそんな誘いに乗るはずがないだろうが」

「お、お兄様…」

「とにかく、俺は顔を合わせるつもりはない。ドレッドの相手はお前たちだけでやってくれ。それじゃあ俺はこの後予定があるから」


冷たい口調でお兄様はそう言葉を告げると、きらびやかな衣装に身を包み、そのまま私たちの前から姿を消していった。

…たぶん、これからもどこかの貴族令嬢か誰かと食事でもして、そのまま泊りになるのだろう。

ざまぁされる未来をなんとか変えてあげたいからお兄様のいう事を邪魔しようと試みてはいるものの、結局効果を出すことはできないままだった。


はぁ…。これじゃあ私ばかりか、私の家ごとざまぁされる未来にまっしぐらじゃない…。

なんとかしてその結末だけは食い止めないと…。


私はこれから会うお父様になんと訴えるのが正解なのか、頭の中に考え始めるのだった。

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