第5話

「レベラ様、一体どうしてそこまでアリシア様にこだわられるのですか?」

「ん?どういう意味だ?」


アーレント家から王宮にへと引き返していく馬車の中で、護衛たる騎士の一人がレベラに対してそう言葉を発した。


「失礼を承知で申し上げますが、正直なお話、我々はアリシア様に関していいうわさを全く耳にしておりません。それどころかむしろ逆で、あの方の性格は非常に悪いものであり、レベラ様との距離が近いことを良いことにして他の人々の事を見下して回るという話も聞きます。その様は、見ていてとても気持ちのいいものではありません。…だというのに、一体どうしてアリシア様にこだわられるのですか…?」

「なんだ、そんな話か」


騎士からかけられた疑問の言葉に対し、レベラは非常に素直な口調でこう言葉を返す。


「たとえ周りからどう思われていようとも、アリシラ様と結ばれる事がこの僕のさだめられた運命じゃないか。それをわざわざひっくり返す必要などどこにもない。僕アお父様の事を心から尊敬していて、そのお父様がアリシア様との関係をすすめてくれているのだ。なら僕が断る理由はない」

「……」


その言葉は非常に真剣な表情のレベラから放たれたものであるものの、この場にアリシラ本人がいたならこう言ったことだろう。


『ほらやっぱり!!運命によって決められた相手だから、性格が悪い相手の事を疑うこともせずに受け入れているのでしょう!でもそうやって言ってるのは最初だけで、後から運命に逆らってでも結ばれたいと思うような女が出てくるんだもの!私はその女を見下して、あんたなんてレベラ様と結ばれるわけがないでしょう、勘違いするのもいい加減にしなさい、身の程をわきまえなさいとか言って攻撃するけれど、最後にはその女の踏み台にされるに決まっているもの!!』


ただ、騎士たちの頭の中にはアリシラの言うお約束は理解できていない。

ゆえにレベラの言葉をそのままの意味にとらえ、こう言葉を返した。


「そうですか…。レベラ様がそこまでおっしゃられるのでしたら、私たちから言えるような事は何もありませんが…」

「君たちはアリシア様の事を疑いすぎだ。本当は彼女の事、何も知らないんじゃないのか?変な噂話に右往左往させられるような事は、王宮に関わる人間として注意してもらいたいのだけれど?」

「も、申し訳ございません…」


騎士はややシュンとしたような雰囲気を浮かべると、それ以上レベラに対して言葉を返すことはしなかった。

しかしその雰囲気こそまさに政略婚約のムードを感じ取る臣下の反応のそれであり、騎士たちはやはりその心の中でアリシラに対する不信感を消し去ることはできないのだった。


――――


アーレント家から去っていく馬車がいる一方で、アーレント家に向かう馬車もいた。

そこにはアリシラの実の父であるドレッド・アーレントの姿があり、彼は出張にて得た小切手の事をにやにやとした表情で見つめながら、こう言葉を漏らしていた。


「クックック、これで私の政治的影響力は着々と王宮の中で育っていっている…!この国の者たちが私の事を崇拝し始めるのも時間の問題だろう。そうなった時、これまで私の事を見下してきた奴らにどう仕返しをしてやろうか…。手始めにそこらの小貴族たちの事はちょちょっと嫌味を言って回ってやったが、かなり悔しそうな顔をしていてなかなか良いものだった。これから先どれくらい大きな事が起こってくれるのか、考えるだけでもわくわくして仕方がないな…♪」


アリシラが心配していた通り、彼女の父親はかなり周囲からの印象が悪そうな男性であった…。

小貴族家たちを見下す言動をとるうえで、自分にとって気に入らない者たちは徹底的に排除し、自らの権力を盤石にすることばかりを考えていた。


「しかもそれに加えて、レベラ第一王子と我が娘、アリシラとの婚約が約束されているのだ…。これほど心躍る展開はない…。向こうも完全にその気になっている様子だし、これはもうどんな女が現れようともレベラ様の事を奪う事など不可能だと言ってもいいだろう。絵本の中では理想のお叔父様がさえない娘を妃とする夢ある展開もあるのだろうが、残念ながらここは現実世界なのだ…。そのような甘い話が起こるはずがないのだからな…♪」


非常に楽しそうな口調でそう言葉をつぶやくドレッドではあるものの、この場にアリシラがいたならこう叫んだことだろう。


『フラグになる!!!!全部フラグにしか聞こえない!!!!どうしてそうやって私の事をバッドエンドに向かうような事ばかりするんだ!!もう嫌だやめてええぇぇ!!!!!』


しかしその叫びはドレッドに届くことはなく、彼は今だにフラグとしか取れない言葉をつぶやき続けている…。

必死にその展開を避け続けるアリシラと、それを防ぐような行動をとる周囲の者たち。

果たして最後に迎える結末は、どちらが思い描いたものになるのだろうか…。

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