第5話 逃亡少女たちを優しく調教しよう!
「う、うぅ……」
ちょうどコカトリスが吐き出した火炎ブレスの着弾点――周囲の草が焼け焦げている場所の中心に、それはうずくまって倒れていた。
一つに結ばれた真っ赤な髪に、鋭く尖った黒いツノ。赤い鱗が生えた竜のような尻尾。
……どうやら、また人外の少女と遭遇してしまったらしいな。
「ご主人さま、どうする?」
ココは首を傾げながら俺の方を見てくる。
「俺がもっと近くで様子を見よう。ココは少し離れていろ」
俺はそう指示を出し、赤髪の少女へ接近した。
「おい、無事か? しっかりするんだ」
試しに体を揺さぶろうかとも思ったが、謎の液体が全身にまとわりついてべちょっとしている感じだったので断念する。正直あまり触りたくないが、今はそんなことを言っている場合ではないな。
「う、ぐ……っ、あんた……だれ……?」
少しして、おもむろに目を開け問いかけてくる赤髪の少女。どうやら死んではいなかったみたいだ。
「俺の名前はキョウヤだ。――そんなことより何があった?」
「こ、コカトリス……」
それだけ言い残し、再び気絶してしまう少女。
「まさか……ヤツに食べられていたのか?! おい、しっかりしろっ!」
今度は呼びかけても返事がない。ひとまず手当てをするため小屋へ運び込もうとしたその時。
「ご主人さまっ! また、落ちてた!」
ココがそう言いながら拾ってきた――というか背負ってきたのは、水色の長髪に魚のヒレのような形をした耳と、人魚のような尻尾が生えた少女だった。人魚との違いは人間の足も生えているところだ。
幼さの残る顔立ちは赤髪の少女とどこか似ていて、身長やその他諸々も並べるとそっくりである。髪色や髪型、そして人ではない部分の特徴だけ明確な差異があった。
「……いやぁ……食べないでぇ……っ」
その時、ココの背負う水色髪の少女がうわ言のように呟く。
こちらもべちょっとしている感じだし、どうやら二人揃ってコカトリスに丸呑みされていたようだな。俺も一歩間違えればこうなっていたのだろうと思うと、実に恐ろしい。
どうなっているんだこの森は。
「とにかく、二人を小屋に運び込もう」
「わかった!」
*
二人の少女を草のベッドに寝かせ、しばらく様子を見る。
二人とも目立った外傷が無く、こちらは飲ませるような薬も持ち合わせていないため出来ることがない。身体は俺が所持していたハンカチである程度ココに拭かせておいたので、後はなるべく安静にさせるだけだ。
「…………だいじょうぶ、かな?」
二人のことを心配そうに見守るココ。
「なに、死にはしないさ。……たぶん」
「そっか!」
ついさっき俺から小屋を奪おうとした獣人少女とは思えない健気さだな。調教の成果だろうか。
「うぅ……?」
「ここは……?」
――しばらくして、二人がほぼ同時に目を覚ました。
「おきた!」
ココは尻尾を振りながら立ち上がり、その勢いのまま小屋を飛び出す。扉から外を覗くと、ココは更地を駆け回りながら俺の方を見て言った。
「ご主人さま! また、落ちてるの、探してくるっ!」
どうやら、今までの優しさは完全な気まぐれだったようだな。
「あまり遠くには行くなよ」
俺は走り去るココにそう言った。理由はもちろん、あいつが近くに居てくれないと俺の身が危ないからだ。またコカトリスに襲われたら三人まとめて食われてしまう。
「わかった!」
元気よくそう返事をした後、すぐさま森の中へ消えていくココ。……本当に分かっているのだろうか。
「な、何なのよあの子……」
一部始終を黙って見ていた赤髪の少女は、困惑した様子で呟いた。
「ちょっとだけこわい……」
一方、水色髪の少女は肩を震わせる。どうやらこっちの方が臆病な性格をしているようだな。
「あいつはココ、俺の小屋を奪おうとした謎の獣人だ。――そして俺はキョウヤ。数日前この世界に召喚された異世界人といったところだな」
とりあえず、改めてこちらから自己紹介をしておく。この説明で伝わるのかは知らん。
「ふうん、そうなの? なんだかよく分からないけど……あんた達が助けてくれたんでしょ?」
「一応はそういうことになる」
「……ありがとう」
赤髪の少女は礼を言った後で続けた。
「あたしの名前はフレア。……それで、こっちが妹のアクアよ」
「よ、よろしく……お願いします……」
ぺこりと頭を下げる水色髪の少女――改めアクア。
「見ての通り、あたし達は
フレアがそう言って俯くと、アクアが続きの言葉を話す。
「……今まで教団の人たちに監禁されてて……お姉ちゃんと二人で何とか逃げ出したんです……」
「追手から逃げてこの森を彷徨っていたら、大きなコカトリスに見つかって食べられちゃったってわけ。……あの時は流石に死んだかと思ったわ」
なるほど。色々と大変だったみたいだな。
それにしてもこの森、訳ありな奴が集まりすぎだろ。どうなってるんだ? 面倒な人間の最終処分場なのか?
「……ところで一つ聞きたいんだが、半魔とは何だ?」
疑問点は山ほどあるが、まずは一番知っておいた方が良さそうな部分から質問する。
「えっ……し、知らないの……?」
「さっきも言った通り、俺は別の世界から来た人間だ。――この世界のことは何も知らんぞ」
「べ、別の世界っ?!」
今さら驚くフレア。そこから理解していなかったのか……。
「簡単に言うと、セントなんとかの王が邪竜ヴォルなんとかを討伐するために異世界から呼び寄せた人間の一人が俺なんだが……平民には情報として伝わってないのか?」
「はい。わたし達の居た場所にはあまり外の情報が入ってきませんでしたし……そもそも、ずっと閉じ込められてましたから……。邪竜ヴォルナールは名前だけなら耳にしたことがありますが……」
なるほど。アクアとフレアもこの世界の情報に疎い側の人間だったか。それなら仕方ないな。
「――半魔っていうのは、魔物の力が混ざった人間のことよ。……原因は分からないけど、時々そういうのが生まれちゃうの。あたし達みたいに」
「お姉ちゃんは火の魔物サラマンダー、わたしは水の魔物ウンディーネと混ざってる……らしいです」
となると、ひょっとしてコカトリスが吐き出した火と水の正体はお腹の中で暴れていたこいつらの能力なのか? 今になって気づいてしまったぞ。
「ふむ、半魔については大体理解した。……それでは、お前たちを監禁していた教団というのは何だ?」
おれは二人に次なる質問を投げかける。
「……親があたし達を売ったところ。教団ではあたし達『精霊様』だとか呼ばれて色んな人から拝まれていたわ」
「だけど、人前に出る時以外はずっと閉じ込められてて……無理やり力を使わされるんです……! わたしもお姉ちゃんも、嫌がったらいっぱいぶたれました……」
要するに、実は裏で悪いことしてる系の宗教団体か。ファンタジーではありがちな設定だな。邪神とか崇拝してそう。
「そうか、今まで大変だったんだな」
とりあえず俺はそう言って、二人の頭を両手でわしわしとなでた。
「ひっぐっ……うんっ……すごぐっ、大変だっだのっ……!」
「もうっ、あんな場所……っ、戻りたくないっ、ですぅっ……!」
すると途端に泣き出してしまうフレアとアクア。
「行くあてが無いならここに居るといい。俺も追放された身だから大したことは出来ないが、寝る場所くらいなら用意できるぞ」
俺の言葉に、フレアとアクアは泣きながら頷いた。
「キョウヤぁ……っ!」
「キョウヤさまぁっ……!」
――やれやれ、教団とやらの人間も随分と詰めが甘い。人を調教するのは得意分野だろうに。
無理強いをするから逃げられてしまうのだ。俺ならもっと上手く、自然にやる。二人が自ら進んで力を使うように仕向ければお互いハッピーだ。
さあこれより、いたいけな少女たちの調教を開始しようではないか……! 俺が本物のカルト宗教ってやつを見せてやるぜ。
「くっくっくっ……!」
〈調教成功、フレアとアクアが
「えっ」
……かくして調教は始まる前に終了した。即堕ちである。
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