第3話 彼氏ができたってなんも変わらへん
「彼氏ができた」
太陽がぎらぎら照り付ける午後。二人で相変わらず弁当を食べていた時、私はそうカミングアウトした。
「それは本当ですか!?」
「そんなしょうもないことで噓はつかへん」
「おめでたいです!おめでとうございます!」
「そんなもんなんか。彼氏ができるって」
私は疑問をぶつけた。
「そうですよ!それで、彼氏さんとはどうなんですか?」
「まだ昨日付きあったばっかや。どうということはない」
「...そうですか」
二人はまた弁当を食べる。もしゃもしゃ。この沈黙をどうしてくれよう。
「言わんほうがよかったか?」
「いえ、昨日付きあったばかりなら聞くこともないですし」
あっちゃんの言葉は、時折日本刀より切れ味がある。
「せっかくならデートでも行けばいいじゃないですか」
考えてもいなかった言葉に、私は喉を詰まらせむせた。
「もう一度言うけど昨日付きあったばっかやで!?さすがに早すぎるやって...」
「まあまあそういわずに。経験がものをいうってやつですよ」
「まあそうかもしれないけどさ...ってあっちゃん彼氏いるん!?」
「?いませんけど?」
あっちゃんの日本語は、たまにおかしい。私もか。
「じゃあ...誘ってみるか...」
私はスマホを開いた。彼氏のトーク画面に私たちは額を寄せる。
[今週末、どこか出かけませんか?]
「何で敬語なんですか?」
「ああ。先輩やから」
「なるほどです」
間もなくして返信が来た。
[いいよ。どこ行く?]
「青春ですなあ」
「心外や」
この状況が楽しくなった私は、更にトークを続けた。
当日。
何かあった時のため、と少し早く集合場所に着いた。ちなみに近くにあっちゃんがいる。彼女曰く「自分が青春を謳歌できない分他人のを見て満足したい」とのことらしい。一瞬できるよと励まそうと思ったが、余命一年。そんなことを少しでも考えた自分を殴りたい。
「ごめん!おまたせ、待った?」
「いや、まあ、」
「そんな固くならずに。もっとラフでいいよ」
これがイケメンってやつか。にくいもんだ。
「じゃあいこっか」
私は最初の目的地へと向かった。途中からあっちゃんの姿が見えなくなったが、後から聞いた話によると宗教勧誘をされていたらしい。
一ヵ所目は映画館だった。「べた」らしいのだが、私にはこれくらいしか思い浮かばなかった。
二ヵ所目は水族館。べたを詰めすぎてハードスケジュールになっってしまったが、意外とそれでも楽しむことができた。
「じゃあ、今日はこの辺で」
彼氏がそういった。私も「うん。ありがとう」とだけ返し、その日は終わった。
「なかなかよかったじゃないですか」
どこからともなくあっちゃんが現れた。
「ずっと見とったんか」
「ええもちろん。ずっと見ていましたよ」
私はなぜか笑った。あっちゃんもつられて笑った。これが青春なんだろう。残り一年、それはあっちゃんだけではなく、私もこの青春があと一年しかないのだ。私は幸せをかみしめながら、少し切ない気持ちになった。
アンテナ・ボックス れいとうきりみ @Hiyori-Haruka
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