第15話
絃は、現世へ向かうため扉がある地下へと足を進めていた。
「あの、ここは幽世で、私がいるとこは現世っていうんですよね」
なずなが、おずおずと聞いてきた。
「ええ、そうですよ。今から、花立さんが生活している現世へ行くのです」
なずなの問いに淡々と答えたのは、月人だった。
「どうやって現世まで行くんですか?」
なずなは、現世への生き方に興味があるのか、声が上ずっている。
「まず、現世と幽世は隣り合わせに存在しているんだ。その両者の間には、扉がある。現世から幽世には、幽世に通ずる接点があってそこを通過すると、幽世まで来れる。ただ、幽世から現世への行き方は、基本的に一つだけ。両者の間にある扉から出入りすること」
「へぇ!なるほど」
絃の説明に、なずなは興味津々のようだった。
扉について説明をしていたら、気が付くと地下へとたどり着いていた。
地下は、じめっとしていてどこか薄気味悪く、重厚な鉄扉が絃の前に佇んでいる。
「これが、現世と幽世を繋ぐ扉だよ」
「なんか、重々しい感じがします」
なずなは、地下の雰囲気に呑み込まれたようで、表情が堅くなっている。
「時間もないので、扉を開けます」
ちらっと、ろいろを見て合図を送る。
察してくれたろいろは、本来の成獣へと姿を変えた。
一声鳴くと、扉は怪しく光り出し、鉄扉の前にある閂が動き出した。扉と閂は開けられるのを待ち望んでいるかのように、ガタガタと揺れている。
絃は、扉の閂に向かって手を向ける。その瞬間に、カチャンと音を立てて閂が外れた。すると、扉はバタンと音を立てて開いていく。
扉の向こうには、真っ暗な暗闇が顔を出していた。
絃は、手のひらから青い炎を作り出すと、どこからか、ぶら提灯がやってきて、青い炎を呑み込んだ。提灯から発する青白い光は暗闇の向こう側まで照らすほどに、明るかった。ぶら提灯の持ち手は、絃の手の中に納まる。
「さぁ、行きましょう」
「は、はい」
なずなは、緊張しているようで顔をこわばっていた。絃は、なずなを落つかせるように優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。僕から離れなければ、迷うことはありませんから」
絃は、妖の姿へ変化する。それに合わせるように月人も、本来の姿に変化した。
ゆっくり、息を吸って吐いてから、絃は暗闇へ足を進めた。真っ暗闇をぶら提灯の明かりだけで進んでいく。
なずなは暗がりが怖いのか、目をぎゅっと閉じて絃の袖口を握っていた。
「花立。目を開けた方がいい。その方があまり怖くない」
軽く助言をすると、なずなは、スッと手を離して目を開けた。
「あ、本当だ。提灯ってこんなに明るいんだ」
なずなは、提灯の光が珍しいのか、まじまじと見つめていた。
「意外と明るいだろう」
「はい。あまり、提灯ってお祭りの時にしか見た事なかったけど、これは良いですね。なんだか、心が安らぐというか懐かしさを感じます」
「そうか」
きっと、なずながいる現世には提灯の光よりも明るいものがあるのだろう、と思いながら歩いていく。
気が付くと、現世へと続く扉へと差し掛かっていた。
扉についている閂が扉からやってくる隙間風によって、ふらふらと揺れていた。扉の開け方は、さっきと全く一緒。
ろいろが一声鳴くと、扉全体が怪しく光り出し、閂と扉がガタガタと揺れる。
絃は、閂に向けて手を向けると、閂に触れてもいないのに、ガチャっと開いた。扉が開いた瞬間に眩い光が差し込んできて、目がくらみそうになった。光が徐々に収束していき、光に慣れた目で現世を見た。
現世から幽世へ来るときは場所を選べないが、幽世から現世は選ぶことができる。絃は、黒人がいる鞍馬山を設定した。
着いた瞬間、絃の目に飛び込んできたのは血だらけの鴉天狗が折り重なって倒れていた。
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