第二章:侵略のカト帝国

10 邂逅と予感

「よお…お初にお目にかかりますってか?」


『地神』という最大の障害を潰し『神都クロネス』を手に入れ、のこのこと天界からやって来た奪還部隊をほぼ壊滅状態にまで追い込み、その土地に『カト帝国』を建国した。


——現状、俺が使える手札は5つ。


1つ目は女神。常にテンションが高く、可笑しな言動が目立ち、何を考えているのかが全く分からない事もあって極力関わりたくはないが…箱庭とやらの知識といい、転移神や玉座にいた神や天使を瞬殺出来る力を持っている点を考えると、かなり癪ではあるが…利用価値はある。しかし種族が神…弱体化しているとはいえ大神という天界のトップの1人だったという事もありいずれ俺の敵に回る日が来るかもしれない。今からでも殺す策を練っておくとしよう。


だが今は、マキナの援護に行っているから…ここでは使えない。


2つ目はデウス。元が大神の最高傑作なだけあって性能自体はかなり強い筈だが、下手に乱用しようものなら洗脳が解けて、目覚めた日にはこの大陸どころか世界が終わる。完全に自我の上書きが終わらない限りは表立っての実戦では使えないし、棺から移動させる事すらも出来ないが、アレには…別の使い道があるからこのままでいい。


どの道、相手に人質(天使質?)にされている以上、使えないが。


3つ目は、まだ完成していないから使えない。4つ目のマキナも前提として今頃、雷神と戦闘を繰り広げているだろうから無理か。仮に俺に同行していたとしても狭い地下空間では何も出来ないだろう。


5つ目は———


「おいおい。いい加減にオレを無視すんなよ。」


「…何か言ったのか?」


「いんや、なんも言ってねえよ?ただまあ…お前さんがオレを見て、必死に頭を巡らせて考えてる姿が面白くてな。つい黙って見ちまってただけだ…どうせ無駄なのによ。」


……よって、俺の手札は全て使えない。ならば己の肉体と頭脳のみで、何とかこの場を切り抜けるしかない。奴の外見は真っ黒な服を着た黒髪の成人男性。分かりやすく武器といった物は持ってはない…行動が読みづらくて厄介だな。だが、それで諦める俺ではない。


現在、デウスが眠る棺の側に奴は立っている。


マキナの持つ索敵能力に引っかからずに、入り口が玉座裏の階段しかないこの場所に誰にも悟られずに、侵入したなんていう馬鹿げた事を考えるのは一旦……後回しにしよう。


まず奴の狙いは何だ?例えば交渉…内容は、デウスの身柄を引き渡す代わりに、カト帝国を寄越せとかか…違う。そんな回りくどい事をしなくてもその隠密能力(?)があれば俺を殺して、動揺した隙をついて残りの2人も殺して、容易く強奪出来た筈だ。


あるいは、天界の関係者…神の可能性もある。しかしデウスの価値を考慮して、無傷で回収しにやって来たのならすぐにでも回収し…とっくに姿を消していてもいい頃ではないか?


待て。デウスを戦いに加担させたくない為の…雷神が仕組んだ妨害工作なのかもしれないのか。いいや、だとしても…やはりそんな回りくどい事をするとは思えない。一度、布越しで会っているが…ユティみたいな馬鹿の印象が俺の中で強く残っているから…固定観念は良くないな…まさか、全てが演技だったのか。


「…お前さん。そろそろ結論は出たのかよ?割りかし飽きて来たんだが??」


「…あ、ああ…悪いな。」


それにさっきからあるこの謎の違和感…まるで世間話を友と語り合っているような…あ、安堵しているのか。この俺が?こんな緊迫した状況で……っ!?


思考の末、俺はその違和感の正体に気がついて…自然と声が出ていた。


「…お前。悪魔なのか?」


「おっ。そうだぜ?オレの名はリード。どこにでもいるようでいねえ、公爵級の悪魔様だ。」


「リード…」


カスラが確かその名前を…いや、今はいい…余計な事は考えるな。公爵級の悪魔という事はつまりカスラと同じ悪魔なんだ。なら目的も……


『——面白半分に侵入して…あー特に目的とかはねえよ。』


「……さては、何となくで来たな?」


奴…リードはそれが当たりだと言わんばかりにパチパチと拍手をした。


「ほぼ当ったり〜よくオレの訪問理由が分かったな。お前さん…それに、驚かねえのな。」


「…唯一の友が悪魔だったからな。」


「へぇ。ちな誰だよ?」


「…カスラだ。」


奴…悪魔は一瞬だけ黙り込んで、元のニヤけ顔に戻った。


「もしかしなくても、騙されてたクチだろ?」


種族も立場も偽っていた事を言っているのなら確かにそうだ。


「だが、勘違いするなよ。」


「あ?何がだ?」


「例え全てが嘘偽りであったとしても、俺とカスラが施設で寝食を共に過ごした…あの17年間は偽りではない。」


「ぶくくっ…ヒヒヒ…そうかよ。友情か…あのカスラと人間のお前さんが…ヒ、ヒヒヒッ。」


腹を抑えながら、棺から離れて俺に近づく。


「そう身構えなくても、今は何もする気もねえよ。寧ろオレを笑わせてくれた礼だ。1つ教えてやる。」


敵とはいえ、情報はあればある程いい。敵意はなさそうだ……聞くだけ聞いてみるか。


「何だ?」


「神や悪魔をこの大陸から排除するだけじゃあお前さんの思い描く理想には届かねえよ。」


!?何故、俺の計画を知って…それに……


「今の内に色々と準備しておくんだな。見たいもんも見れたし…あばよ。」


——人類代表。


俺の静止の声を聞かずに、悪魔は闇に溶けて消えてしまった。


『——お前さんの思い描く未来には届かねえってこった。』


「…チッ。」


分からない…何故、俺の計画が悪魔に漏れた?これを知っているのは、あの場で殺し損ねたエクレールと女神の所為で勝手に俺の演説を天界に流し、それを聞いたであろう神々のみの筈。


だが今は……デウスに指示を出すのが先だ。幸い、俺が見る限りにおいては特に何かされた痕跡もない。


『今の内に色々準備しておくんだな。』


単なる戯言の可能性もあるが、妙にその言葉が引っかかる。神しか知らない情報を悪魔が持っていたとすると…


「…いや、まさか…な。」


俺は脳裏によぎった仮説を一旦無視して、デウスに指示を出した。

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