第三話 ⑧
「何だと!?脱出口の準備は?生徒達は?」
「脱出口は確認してます、そちらへ一人研究員送りましたので詳しくは彼から聞いてください」
「分かったありがとう。幸運を祈る」
「こちらこそ」
電話を切り、助手に話す。
「……我々の場所が特定され、警察が向かってくるそうだ。」
「大変なことになりましたよ、どうします?」
「とにかく二人を覚ましてくれ、皆に私からこの事態を伝える」
「わ、わかりました。僕はここで処置します」
「それじゃあ、またあとで……」
博士はマスク、手袋、防護服を脱ぎ、広場へと向かった。一方助手は二人を優しく起こし、彼らから採取した血液を自分の胸ポケットに厳重にしまい込んだ。
「起きてくれ、頼む」
「え、え……え!?誰だよお前!」
「博士の助手だよ、大丈夫なにもしない。」
「え、何よ……貴方は!私に何したの!」
「なにもしてないよ、僕は君達の味方さ」
「嘘つかないでよ、どうせ何かしたんでしょ」
「それじゃあ、味方だっていう証拠見せるよ」
助手はポケットから携帯電話を取り出し、警察との通話記録を見せた。
「お前!奴等の仲間じゃないのかよ」
「こんなことをするとは聞いていなかった。ただ博士の手伝うだけでいいと言われ、こんな感じになった」
「助けてくれるの?」
「当たり前だろ、そうじゃなきゃこんなことしないよ」
「警察の人達は?もう来るの?」
「それがね今、警察が来ること分かってて逃げようとしているんだよ、今博士が広場に集めて逃げることを伝えているよ」
「本当はただの人間じゃなくて警察官だったりして……」
「良くわかったね、能力でも使ったかい?」
「警察官!?貴方が!」
「具体的に言えば潜入捜査官、今やっていることは違法だけど君達を助けるために来たわけさ」
「何でこのタイミングなの?」
「これ以上、研究するといけないと思ったんだ。全ての情報を知ったこともあるし、終わらせようと考えたから」
「情報?アタッシュケースとかこの施設の事?」
「そうだよ、アタッシュケースは現在行方不明だけど、全てのデータは管理しろと言われてるから僕の手の中にある」
「凄い!!これからどうするの?」
「まずは警察の到着を待つ、その内に博士を逮捕する。君達は自分の部屋に戻って荷物をまとめていて」
「わかった。でも貴方手錠なんて何処にあるの」
「この服の下さ、隠し持たないとバレるからね」
「ありがとう、それじゃあ頑張って」
「おう、皆にも伝えておくれよ。またな!」
とても元気な助手はまだ二十歳過ぎ、皆からも評判が良くいい先生として人気ある人だ。
「私達も行きましょうか」
「それにしても心臓辺りに注射射されたのかな、変な感じするよ」
「注射させられたの!大丈夫?」
「胸が苦しい感じするけど問題ないよ」
「だと良いけどね、しっかりしてね」
「あぁそちらこそ」
場面は変わり、電話越しに変わる。
「警部さん!マズイことになったぞ、奴らに我々が突入されると気付かれた。今逃げ出そうとしているぞ!」
「え!本当ですか!これはマズイぞ!」
「直ちに、研究所に向かい。突入するんだ」
「わかりました。ありがとうございます!」
「幸運を祈る!」
警部は皆に知らせ、研究所へと向かわせた。特殊部隊は後ほど向かった。
「パトカー五台、特別収容車一台、特殊部隊はあとから行かせますよ」
「それでよい、なるべく急いでくれ」
パトカーの運転は荒いもので、前の物が止まって見える程急いでいる。
「今はそれどころでは無い、一刻も早く到着しなければいけない。私も行くぞ、」
「ええ、着いていきます。」
一方で地下研究所内では、生徒は広場に集められ脱出の準備を促した。
「今すぐに自分の部屋に戻って荷物をまとめてここに集合です。とにかく急いでくださいね」
「博士、別室へ連れて行かれた皆はどうなるんですか?別々ですか」
「今、話すことでは無いが後ほど皆さんと合流します。さぁ早く行きなさい!」
「はーい」
子供たちはすぐに解散して自分の部屋へと急いで行った。一段落したと思って椅子に腰を掛ける
「こんなはずではなかった!私の研究はまだ終わっていないというのに……」
過去の事を振り返り、頭を抱え落ち込んだ。
「これ?貴方の物なの?」
「それがどうしたんだ」
「なんとも変なものを持っているわね」
「別に君には関係ないだろ」
「だいたいね、食堂から持ってくることがオカシイのよ」
「別に良いじゃないか、部屋でできる楽しみでもあるんだ」
「それにしても良くこんなの作れたわね……」
話しているのは、ナイフやフォーク、スプーンなど食器で作った小細工な工作だった。
「暇だったから役に立ちそうなものだよ」
「また変なこと言う……」
「へへ、……!?アタッシュケースどうする」
「え!?アタッシュケース……」
「誰が持つ?」
「僕は直ぐに無くすよ」
「え、私なの?ちょっと待ってよ」
「大きさ的にも持ち運ぶの難しいよ」
「能力かなんかで小さく出来ない?」
「出来ないかも……ごめんなさい」
「そうか……じゃあどうする?」
「中身の書類だけ私達の鞄に詰めて持ってきましょう」
「それいいね!手伝うよ」
「貴方の鞄の中に入れられるの?」
「そんな中身無いから大丈夫、大丈夫」
「全く、この人は大丈夫かしら……」
書類、衣服、大切な物を鞄に積み込み部屋を出て廊下を走ろうとしたとき、博士と対面した。
「どこに行こうと言うんだ君たちは……」
「逃げなくちゃいけないんでしょ、私たち」
「だからって何処へ向かっている?君達は他の人と同じ場所へは行けないよ」
「それって俺らが特別だからか?」
「その通りだ、わかってるじゃないか」
「じゃあ、私達をどうするの!」
「もうそろそろで特別な人達が我々を増援するとともに限られた者を向かいにやってくる。君達と一緒に乗り込むんだ」
「そんなことしても何になるって言うんだ!」
「新たな人類の誕生、野性の人間を研究する。この事が成功すれば気配や動物が持つ感や予知能力などをヒトに植え付けることであらゆる災害、危機を乗り越えることができるんだ。そのためにも君達が必要なんだよ!」
「ただの生物実験じゃない、こんなことして許されると思ってるの?」
「これは国から直々に命令された機密事項だ。そんなことわかっている」
「そこで立ち止まっている気か?博士」
「そんな口をしていられるのは今だけだぞ、小僧。君の心臓に特殊な注射をした隣に居る彼女の数十倍の力がある。我々に従わなければどうなるか知らないぞ」
「従わせるように注射したんだろ」
「そんな事言っているつもりか?危機がまだわからないのか」
「獣だろうが狼だろうが俺は俺だ」
「聞く耳を持たないのか、なら教えてやろう。お前の身体はもうそろそろ変化し始める頃だ。隣に居る彼女のように表面では変わりは無いが獣のようになるかはお前の自分自身に聞きな」
「そうやって宿命を創るのかよ……」
「そうだ。お前たちは最初からそうなると決まっていた。」
「デタラメばっか言いやがって……逃げるぞ」
「え!?ちょっと!」
主人公は彼女の腕を取り、博士の立ちはだかる反対の通路へと駆けていった。
「そんなことをしても無駄なのに、何だこれは」
博士は主人公の落としていった紙を拾い上げた。
「これはまさか……紛失したアタッシュケースの物!?では何故アイツらが!」
手にした資料を胸ポケットにしまい、無線機を使って他の先生方に連絡する。
「◯ブロックに居る全ての研究員!警備員に次ぐ。現在あのペアがそちらへ逃走中だ、何としても取り押さえろ!絶対だ!」
THEY @-Rivers-OIKAWA
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