第8話 一生の思い出にしよう

「ばいばーい、おねえちゃん」


 午後5時。竹川くんは時間通り公園に、セツナくんを迎えに来てしまいました。

 さすが元害虫です、空気が読めません。


 お兄ちゃんと手をつないで家路につくセツナくんを見えなくなるまで見送り、ひとりで帰宅したわたしは自室のベッドに倒れこみます。


 あぁ~……セツナくん、かわいかったです~♡


 セツナくんとの、夏の日の夢。

 映画館デート、初めてのキス(わたし的には)。


 それに……一緒にお風呂まで!


(わ、わたし……セツナくんと一緒にお風呂入っちゃったんだよ、ね?)


 まるで夢のような感覚。

 だけど洗ってあげた彼の身体と髪の感触は、両手にしっかり残っていて、


(きゃっ、きゃあぁああぁ~っ!)


 心臓がバクバクして、顔が勝手にニヤけてしまいます。

 セツナくんのお顔が、声が、唇の感触が、なめらかな肌の……はっ、はわぁっ! はぁ、はぁ……い、一生の思い出にしよう。


 こんな幸運、一生に一度あるかないかです。

 もう、こんな幸運は巡ってこないでしょう。


(……幸運?)


 これを幸運と感じてしまうのは、人としてどうなのでしょう。

 ですが、息が苦しい。心臓が痛いほどにバクバクします。


『ふくぬいだよ。おねえちゃん、ぬがないの?』


 細い手足、薄い身体。セツナくんが痩せているのか、7歳の男の子ってそういうものなのか、普段わたしが目にしているマンガやイラストの男児より、彼の身体は痩せて骨ばっていた。


『ひろいね、おねえちゃんちのおふろ』


 正面を向き、わたしを見上げるセツナくん。裸のわたしのすぐ近くで、裸の幼い男の子が微笑んでいた。


「からだあらえたよ。ながしてー」


 誇らしげなお顔。背中を洗ったのはわたしですけど。ですが急に前を向かれると、恥ずかしいのですが!?

 お身体からだは泡まみれですけど、全部は隠れていません。大事なところも、そ、その……恥ずかしくないのですか!?

 お姉ちゃんは恥ずかしくて、目を開けられないんですけど〜!


『おねえちゃん。ぼく、あたまあらいたい。シャンプーわかんない、どれ?』


 はい。では、お姉ちゃんが洗ってあげましょう。

 頭なら、なんとか平気です。


『ぼく、あたまふくのヘタなんだぁ。いっつも、にーちゃんにやってもらってる』


 そうですか。では、お姉ちゃんがふきふきしてあげますね。髪の毛細いですねー。かわいいです♡


 お風呂でのやり取りを思い出しながら、まくらに顔を押しつけて、


「セツナ……さん」


 彼の名を口にします。

 くんではなく、さん。声に出して、本当に呼びたかった名称で彼を呼びました。


 わたし、自分でも理解できませんが、幼い子に「さん付け」の方がドキドキしちゃうのです。

 好きなマンガのショタキャラも、つい「さん付け」してしまいます。

 それがおかしな感覚なのは自覚していますから、彼のことは「セツナくん」と呼びましたけど。

 むしろ「セツナさん」なんて、彼を目の前にしては呼べません。あまりに恥ずかしくて。


「セツナさん、セツナさん、セツナさん♡」


 まくらで声をころし、彼の名を繰り返します。胸の中が「セツナさん」でいっぱいになって、苦しいです。


 ですがこのとき、わたしは想像もしていませんでした。

 この夏わたしが、セツナくんと、もっとたくさんの『ドキドキな時間』を過ごすことを♡


 ふたりでプールに行ったり、わたしのベッドで一緒にお昼寝したり、再びお風呂で身体を洗いっこしたり、「おねえちゃん」じゃなくて「こころちゃん」って名前で呼んでもらえるようになったり、頭をなでなでしてもらったり、


「こころちゃん、だいすき♡」


 と、抱きしめてもらえたり……とか、そんなドキドキをたくさんいただけることを、わたしはまだ知らなかったのです!



〜Fin〜

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小学2年生(7歳美男児)とデートしちゃったショタ好き女子大生ですが、これ……犯罪じゃありませんよね? 小糸 こはく @koito_kohaku

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