3年目 後

「これより会議を始める」


めちゃめちゃ寝た。


外から物音が聞こえてなかったら2日目に突入するところだったけど、なんとか起きれた。

眠気は魔法で抑えてた影響もあってか、かなり深い眠りに落ちたおかげで全く無いね。


「現在の状況はかなり悪い、情報という面では何もわからないと言っていい」


現在会議中、ツンデレおじさんと騎士数名、そして私達アルス勇者パーティー。

机に置かれた周辺の地図には襲撃された場所を表す旗の形をした赤い駒が8つ置かれている、


「こちらの方向は明らかに視界が潰されており、敵の本隊か強力な存在がいると思われる。

こちらの方面は勇者様方にお任せし、我々騎士達は勇者様の後方を固めるために陣を引く予定だ、なにか意見のある者は?」


会議の内容は魔王軍の動きを把握するための作戦会議、作戦のほとんどはツンデレおじさんが考えていてそれに参加者が意見する形である。


「無いようなので作戦はこれでいくとする、実行日は明日、さっそく準備に移るぞ」

「「「かしこまりました」」」

「勇者様方は実行されるまでお休みされていて構いません、特にそこのエルフは」


ヘレンに抱き上げられてるけど、別に動けないほど疲れたりしてるわけじゃ無いからね?!

でも、気を使ってくれてありがとう、ツンデレおじさん。


おやすみ!




ーー作戦開始日ーー


「では、ご武運を」

「何かあればすぐに合図をお願いします」

「勇者様方が戻られるまで、我々で守り切ってみせますよ」


陣の責任者にそう伝えられ、私達は騎士達から離れ安全の確保出来ていない場所へと歩みを進める。


「周辺から嫌な気配が多いな、アンデッドか?」


予定されていた陣の場所まで向かうまでにも魔王軍が放った魔物が多く中々に苦戦した、砦周辺の安全が確保できていない状況を理解させられていた。

私たちの目標は魔王軍の本隊を見つけて調査すること、あまり体力を消費するわけにもいかず戦闘を避けながら進んでいく。


────


「…………?」


敵を避けながら進み続けるも、そろそろ戦闘を避けることが厳しくなっていた頃、見られたような気がした。


「どうしたんだ?」

「なんでもない……」


気のせいかもしれないけど、嫌な予感がする。

胸の中から湧き上がってくる不安感、まるで入ってはいけないところに来てしてしまったかのようで、息が詰まる。


「はひゅ、はひゅ……」


呼吸が荒くなってきた。


「……!アルス、リースちゃんの様子がおかしいです!」

「なに?おい、俺の眼を──」


【かわいい……】


前世で聞いた不快な機械音のような声が響いた、その声は大きくは無かった筈なのに私たちの耳に届いた。


「……メリッサ、リースの治療を頼む、ヘレンは俺と一緒に警戒」

「わかりました」「わかった」


息がしにくい中、声の主を見る。

声の主は人形を抱いた人型の少女、だがその姿は異様だった。肌がツギハギで所々から垂れる糸の先に裁縫で使う針がぶら下がっていたのだ。


『かわいい、カワイイ、私ね、かわいい物が好きなの、カワイイ物と友達になりたいの、ずーっと離れない友達になりたいの、あなたの眼がかわいいの』


「ひぅ……」


怖い怖い怖い怖い怖い。

理解できない相手に執着されているのが本能でわかってしまった、恐怖心が無限に湧き出てくる。


「お前は誰だ」

『ワタシ?私はカワイイでしょう?かわいい私は魔王様に可愛がられているのよ』

「つまり、魔王軍の者なのだな?」

『そうなの、いい加減前線を動かしたいってカワイイ私に頼んできたの、だからかわいいワタシはあの砦を壊そうと思って動いて──』


カーン!


「硬っ……!」


ペラペラと話す相手をアルスが切り付けるも、弾かれる。


『もうっ!いくら私カワイイからって急に攻撃はダメ!友達が傷付いちゃうじゃ、ん……?

待って、傷が付く?』


相手の貼り付けたような笑顔が怒りに染まる。


『ふざけるなよ、ワタシと一緒にいてくれるかわいい友達を!傷つけようとするなんてぇぇ!許せないからぁぁぁぁ!』

「ま、【魔力腕!】」

『そんなの効かないよぉぉぉ!!』


アルスやヘレンの剣はもちろん、私の魔法までもが弾かれる。


「リースちゃん大丈夫なの?!」

「ん、メリーのおかげでなんとか……」


メリッサの魔法のおかげでなんとか正気を取り戻したとき、私達と相手の戦闘が始まった。

明らかに格上との戦闘、唯一の救いは攻撃をあまりしてこないこと、攻撃して距離を取ってを繰り返しながら有効打になりそうな攻撃をひたすら繰り返す。


パキッ


「これも、だめ……?」


手加減無し、全力の【魔力腕】ですらある程度吹き飛ばしただけだった。


『ううぅぅぅぅ!!!!』


頭を抱えて座り込む相手、なんだが虐めてるみたいで気分が悪い。


『ぅぅぅ……

アハっ、アハハハハハハ!!』


突然の笑い声に私達は一瞬固まる。


『助けてぇぇ!お願いぃぃ!』


助けを求める声に応えるように半透明の人間が複数現れる、顔は見えないものの髪の長さや服装は女性の物だ。

そして出現したのは5体、それぞれ剣や盾、杖を持っていた。


「一度引くぞ、俺達はアイツに対して有効打が無い!」


指示を出したのはアルスだった、私達はその指示に従い瞬時に動き始めた。


『【…………】』

「【魔力防壁】!」


恐ろしい威力の魔法だ、私の半分くらいはあった。


「アルス!コイツ強いぞ!」

「なるべき距離を取れ!」


ヘレンが剣を持つ召喚体と戦い、アルスは全体を見ながら足止めとフォロー、私とメリッサは全力で距離をとった。

アルスとヘレンは私の書いた魔法陣で離脱するはず、全員持っているが足止め要員を残す事で相手に離脱する手段があると思わせない作戦の1つ。


作戦は成功したと言っていい。

ある程度距離をとった時点で召喚体は戦闘が行われている方向へと戻っていき余裕が生まれた、周囲にいた魔物は私の魔法で倒し、体力温存のために走りから歩きに変えた。


「……メリー、大丈夫?」

「はぁ、はぁ、大丈夫です、よ?少し、息切れしてしまった、だけですので……」


息切れし、疲労とは別の意味で震える肩を見てしまってはとても大丈夫には思えない。


「がんばって、もう少しで騎士さん達居る……」

「そうですね、頑張りましょう」


少し遠くで魔法陣が発動した気配を察知する、アルスとヘレンが使ったみたいだ。

私達も騎士さん達の陣へ到着し──


「敵襲だぁぁ!!!」

「「!」」


魔王軍に襲撃されてる!

早く助けないと!


「メリー行こ──グッ」

「え?どうして?!?!」


どういうこと?なんで私はメリッサに首を絞められてるの?


「くるしぃ……」

「う、腕が!腕が勝手に動いちゃうの!!なんで?!?!」


メリッサ自身も理由がわからないみたいだ、涙を流しながら右手で絞める左手を剥がそうと手首を掴んだり引っ掻いたりしてる。


ゴキン!


意識が無くなる直前に感じたのは骨が折れる鈍い音と、私とメリッサの魔法陣が発動した感覚だった。






報告書

作戦参加者

騎士達40名(名前省略)

アルス勇者パーティー


魔王軍の数確認 失敗

前線の押し上げ 失敗

厄災『ペロミア』の確認(戦闘記録は別紙参照)


被害報告

騎士6名殉職

怪我人24名(治療済み)


勇者アルス 怪我(治療済み)

聖女メリッサ 骨折(治療済み)魔法にかかり左腕を乗っ取られている(解除失敗)

魔法使いリース 精神的なダメージを負っている疑い(勇者パーティーによる治療中)


作戦は失敗



今後の方針

砦を維持しつつ戦力の立て直し、厄災に対する対応方法を話し合い討伐を目指す

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