第65話
フランが日に日に元気がなくなっていく。食事を残したり、今まで楽しく学校へ行っていたのにふさぎ込んで行かなかったりしている。
大丈夫?なにかあった?と聞いても『なんでもありません』しか言わない。
私はヴォルフをフランに内緒で呼んだ。常に傍にいる彼ならわかるかもしれない。私とジャネットに囲まれて彼は何を聞かれるかわかってるとばかりに困った顔をしている。
「ヴォルフ!正直に話しなさいよ。あんたならフラン様からなにか相談されてるでしょぉ!シア様、すっごく心配してるのよぉ」
「ごめんなさいね。本当なら私がフランから聞けば良いんだけど、絶対に言わないのよ」
私にいいたくないことなのかなとしょんぼりする。以前はあんなに母様!母様!と言っていたのに。
「それが……ワイにも教えてくれへん。ワイも心配なんやけど……他愛ない日常の話や勉学の話のみなんや。悩んでいることはわかってるんやけどな……」
ヴォルフがワイだって、フラン様に好かれてるし、心を許してくれていると思ってたんやとガックリ肩を落とす。
「ヴォルフが落ち込んで、どうするのよぉ!」
ジャネットがバシーンと背中を叩く。痛ええええとヴォルフが叫ぶ。確かに痛そうな音がした。たまに男の力を持つこと忘れちゃうのかも……。
「ええっと……」
聞かなければよかったかもとちょっと後悔した。
周囲がフランに対して心配も最高潮になってきた時だった。その事件が起こったのは。
「アル!?」
ある日、夜会から帰ってきたアルが家に入ると同時に倒れ込んだ。私やシリルが駆け寄ると大丈夫だと弱々しく言う。
シリルが薬を持ってきます!と走っていく。ハアハアと呼吸が荒く、額に汗。
女アレルギーの症状なの!?抱き起こしたいけれど、私は触れられないため、もどかしい。
「どうしたんですか!?なにがあったんすか!?」
「なんでもない……」
なんでもない?だって、これは女性に触れなきゃならない症状でしょう?嫉妬なのか不安なのかわからない気持ちとフランのことを心配して気持ちが落ち込んでいたのとが重なった私は限界で、ポロポロと涙が自然と溢れた。アルが目を見開く。
「フランもアルも『なんでもない』っていうけれど、その言葉で、どれだけみんなが心配すると思ってるの?ちゃんと話してくれないとわからないもの!」
後から駆けつけてきたフランまで私の涙を見て動揺した顔をした。
「シア……」
「母様……」
私は二人を見て怒り泣きをした。
「二人ともバカーーっ!」
アルが痛そうな頭を抑えつつ、ハハッと笑う。
「何笑ってるの!?笑ってる場合じゃないわ!」
「いや、可愛いなぁと思ってたんだ」
「子供っぽいってこと!?心配かけてるのに!?もうっ!そんなこと言ってないで、アルもフランも肝心なこと教えなさいよっ!」
両手で顔を隠してシクシクしだし、本気で泣く私に、ごめん。ごめんなさい。と二人が謝る。
アルは治ったら明日の朝にでもすぐに話すよとシリルから薬を受け取り、そう言ってヨロヨロと自室へ消えた。
フランは私の顔を見る。フランまで泣きそうだった。その顔を見て、私はギュッとフランを抱きしめた。
「母様!ごめんなさい!僕、僕……」
「フランがなぜ苦しんでいるのか教えてくれる?」
ハイと頷くフラン。心配していたジャネットとヴォルフも私の部屋に一緒についてきたが、フランは何も言わなかった。
3人の視線を集めてフランは下を向いた。
「いっぱい心配かけてごめんなさい。僕、王宮へ行かなきゃだめってわかってるんだけど、行きたくなくて」
「行かなきゃ……だめ?そんなこと誰か言ってたの?」
「は、はい。学校へいったとき、知らない女の人からフランにあげてって言われたって友達から、手紙をもらったんです。その手紙は……オースティンと書いてあって……」
「なんですって!?」
私の声とジャネットとヴォルフの息を呑むのが同時だった。
「手紙見せてくれる!?」
フランが持ってきた手紙を読むと今すぐ破り捨てたい衝動に駆られる。
『フラン王宮へ戻れ。シアとアルバートの邪魔になっている。おまえがいることで、大好きなお母様の幸せを奪うことになる。2人に新しい子供が生まれる前に帰れ。そのうちおまえの居場所はそこにはなくなるだろう。今なら間に合う。可愛そうなフラン、王宮で暮らすなら、面倒をみてやろう。帰る気になったら『王宮へ戻りたい』と話せ。そうすれば王宮へ戻れる。皆が不幸になる前に戻ってこい』
子どもにこんな脅すような手紙を書いて!!オースティン!!許さないわよ!!
手紙を持つ手が怒りで震える。ガシッと私はフランの肩を掴む。
「フラン、良い?絶対に私とアルはフランがいて不幸になることはないわ。むしろいないと寂しいし、悲しいわよ!こんな嘘ばっかりの手紙と私、どっちを信じるの!?」
母様ですと言わざるをえない雰囲気やん……それ……とヴォルフが突っ込む。
「母様、僕がいてもいいんですか?」
もちろんよっ!と私はフランを抱きしめ、離さない。
「この手紙、旦那様にも見てもらいましょう!」
ジャネットが怒りがおさまらない私に破られる前に、速やかに手紙を回収したのだった。
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