第53話

  ふと私が目を覚ますと、目の前には黒服の怪しげな人……ではなく、黒い服の修道女がいた。えっと?ここは修道院なの?どういうこと?現状を把握できない。


「まあ!目を覚ましたわ!よかった!」


 まるで眠り姫が起きたかのように、私を見て喜ぶ。人を呼びに行ったらしく、走っていってしまった。


 やってきたのはふくよかで優しそうな修道女だった。


「大丈夫かしら?この修道院の前に倒れていた時は本当に驚いたわ。この手紙の通りなら、匿いますよ。かわいそうにね」


 手紙ってなにかしら?私は(なんのことでしょうか?)と一言、声にしようとしたのに、言葉は宙に溶ける。パクパクとした口の動かし方しかできない。


 声は!?声はどうしたの!?私の声が出ない。おかしいわ!?思わず喉を抑えた。


「ショックだったのね。ストレスで声がでないのね。大丈夫よ。ここは厳格な神殿管轄の女性だけの教会です。安心して神に仕えるといいわ」


 両手をぎゅっと握る少女。(違うの!私は自分から進んで、教会にきたわけじゃないのよ)そう言いたいのに、言えない。手紙を読みながら、ふくよかなシスターは絶対に守りますからねと言う。なにから守るのよ!?


「起き上がれるなら、一緒に食堂へ行きましょう。何か食べたほうがいいわ。もう夜なのよ。あなたずっと寝てたのよ。わたしはエリス。新人のお世話をするように頼まれてます」


 三つ編みの可愛くて、若い女性から私は修道服を渡される。大人しく着替えることにする。抵抗は無意味だし、とりあえず状況を知りたかった。そのためにはこの部屋からまず出ることだと思う。


「このワギュレス修道院に逃げ込んで正解だったと思うわ」


 ニコニコと悪気のない笑顔で私にそう言う。その様子から、ここの人たちは事情を知らないし、共犯者でもないとわかった。


 手紙の内容ってなんだったの?なんのことなの?そう聞きたいけど声が出ない。


「ここは厳格で神聖な場所だから、誰もはいってこれないわ。よかったわね」


 食堂のドアを開ける。心もとない3本の小さくなったろうそくがチラチラ燃えている。とても薄暗い……。テーブルの上には小さなパンと野菜のスープ。


「さあ、夕飯を食べましょう」


 久しぶりの粗食だわとジッとみつめていると、前の席の女性が鋭い目で私を見た。


「なんなの?どこかの偉い貴族の奥様って聞いたけど、ここの食事が不満なら食べなくていいのよ。お口に合わないのね」


 ヒョイッと私のスープの皿を持っていき、口をつけて食べだす。


「ま、待ちなさい!」

 

 エリスの制止は鼻で笑われる。


「いいじゃないの。どうせ残すなら同じよ」


 ちゃんと食べるわよと言いたかったけれど、声が出なくて上手く伝えられず、首を私は横に振るだけだった。


 周囲の修道女達の視線が突き刺さるように痛い。これ以上、騒ぎを起こしたくないと私はエリスの服の袖をひっぱり、微笑んでみせる。


「で、でもっ……」

  

 座りましょうと私は椅子に座るように促す。エリスは座って困った顔をしてお祈りをし、食事をした。私も小さなパンを少しずつちぎって食べた。


 うん……王宮内でのことに比べたら、まだ耐えれるはず!私はそう思うことにした。


 そして誤解を解くことから始めよう。


 アルが迎えに来てくれるかもしれない。そんな期待も持ってるけれど、自分で、できるところからやってみようと思うのだった。


 そうよね?アル……迎えに来てくれるのよね?

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