第48話

「学校は危険すぎるっ!」


 あの女生徒たちはなんだ!?オレが在学してた時、あんな至近距離でキャーキャー言われたことがない!遠巻きで見ていたのは知ってるが……。今どきの若者は……なんて思ってしまうオレは、もはや若くないのかっ!?


 それにしても、フランを探し当てる前に、まずオレがやられる!ヴォルフがうーんと顎に手をやって考えている。


「確かにアルにとっては一触即発やなぁ」


 屋上近くの階段に隠れて作戦会議をする。


「でもフランはホントに来てるんやろか?アルに反対されてはるのに、ここに来ていはるやろか?」


「来る。オレは思うが、フランの芯はしっかりしているぞ。納得できていなかったんだろう」


「うーん……でも欠席してるって言ってるんやで?」


 オレはオレとおまえの姿を見てみろと言う。


「あんなに学校祭へ行きたいと言っていて、他のところへ行くか?もしかしてだが、フランも変装していないか?」


「えええ!そりゃ見つけるのが困難ちゃう?」


「おちつけ、ヴォルフ。フランはお前に何か話していたかわからないが、ヒントになるものはないのか?。学校祭について話したことは?」


 うーんとしばらく考えてからヴォルフはポンッと手を打つ。


「そういえば、フラン坊ちゃんは。看板にペンキを塗るのが楽しいんやと……それからケーキやコーヒーが美味しいんですよと言ったんやけどなあ」


「なるほど。ペンキで塗った看板とケーキやコーヒーの店を探せばいいんだな」


 名推理やなぁ!と、からかうような口調のヴォルフに苦笑する。


「おまえは呑気だな」


「ん?ワイはいつもこんなもんやで?」


 確かにな……。


「フランの居場所を聞くのは男子生徒のみにしよう」


「アル、その体質難儀やなぁ」


 うるさい……。

 

「でも昔の学生時代を思いだすわー!アルも学校、楽しかったんちゃう?」


「まあ、楽しかった。良い学友に恵まれていたと思う」


 せやろ!とまるでヴォルフは自分が学友代表!みたいな顔で言うのだった。


 昔を懐かしく思いながらも、フランのことを聞き出していく。


「フランをみかけなかったか?」


「ああ?最近入ったやつだろー?ちびっこなのに、優秀だって聞いてる。今日は見かけてないなぁ。クラスのやつらが知ってるだろ。それより寄っていかないかー?楽しいぞぉ!」


 お化け屋敷でもしてるのだろう。血みどろでニヤーと笑う男子生徒が怖い。オレとヴォルフは急ぎの用事だからと言って断る。


「ちょっと聞いてもええかー?フランを知らへん?」


 かごを持って、なにかを販売しているらしき男子生徒が振り返る。


「いや、知らないです。おひとついかがですか?」


「なんだ?これは?」


「後夜祭で花火をするから、その時使う、手持ちロケット花火です。楽しいですよ」


 へぇー!ええんちゃう!?となぜかヴォルフはゴッソリと買っている。後夜祭まで、いるつもりかよ。


「喫茶店?これか??」


 看板にウサウサ喫茶とウサギの絵と共にケーキやお茶の絵がかわいらしく描かれていた。嫌な予感がするため、そっと中をのぞくと案の定、女性だらけだった。だよな。そういう雰囲気が飾り付けからして漂っている。


「うわー!かわええええええ!」


 こっそり見ようと思っていたのに、ヴォルフが突然叫ぶ。


「静かにし……うわっ!」


 俺の目の前になにか生きものが横切った気がしたぞ!


「いらっしゃいませえ!可愛いウサギと一緒に癒されませんか?」


 ほ、本物のウサギ!?ぴょんぴょんとウサギが地面を跳ねたり、すみっこに固まったりしている。声をかけてきた女子生徒はウサ耳を付けてウサギを抱えている。


「ええなー!フワッフワッやで!」


 ヴォルフが幸せそうにウサギを撫でている。喫茶店はウサギと触れ合えるウサギ喫茶だったらしい。


「さすがにここにフランはいないだろう。いくぞ」


 オレはヴォルフを促す。ええええ!まだいたいんやー!!と名残押しそうだが、無視することにした。フランを探しているのに、ウサギに癒されていて、どうするんだよ。


「お客さん、ウサギに餌もあげれますよ」


 かわいらしいウサ耳をつけ、小さな可愛い売り子が人参スティックを差し出してき……。


「フラン!?はぁ!?なんだその恰好は!?」


 小さなフランがウサ耳を付けて、尻尾をつけ、なんならスカートまで履いて、目の前に立っていた。キョトンとした後、オレとヴォルフに気付く。あ!しまった!という顔になるフラン。


「えっ?なぜ生徒になってるんですか?どういうことですか?」


「フラン、聞きたいのはこっちだ!屋敷を抜け出したな?」


 オレがそう言うと、しょんぼりして、ごめんなさいと謝るウサ耳フラン。変装したつもりだったのか?これ?どこからどうみても可愛い女の子だった。まさか女装していたとは……。


「まぁまぁ!アル、ええやないか。無事だったし、可愛ええフランも見られたし、それにワイらも昔を思いだせたやん?」


 オレはポンポンと肩を叩かれて、半眼になった。ヴォルフはヘラヘラ笑っているのだ。そうだ……どうもおかしいと思っていた。


「おまえ!ヴォルフ、フランの味方をし、抜け出す手助けしたんたな!?最初から学校にいると知っていたなーーー!?」


 なんのことやの?ととぼけるヴォルフ。やけに余裕があると思っていたんだ!


「待ってくださいっ!僕が無理やり行きたいって言ったんです。ウサギのお世話も好きだし、みんなと一緒に飾りつけも作ったし、こんな楽しいこと初めてだったんです」


「フラン、お説教は後だ。帰るぞ。ヴォルフ、話を後からじーーーっくり聞かせてもらうぞ」


 オレの一言にフランはしょんぼりする。かわいそうだが、仕方がない。それが地位あるものの宿命なんだ。ヴォルフはやれやれと両手を広げている。連れ帰ろうとした時だった。


「フラン君。帰っちゃうの?ウサギさん触ってく?」


「ええ!?残念。フラン君可愛いのに!」


「お家の人に、見つかっちゃったのー?」


「きゃー!女装、バレちゃったー!?完璧だと思ったのにな」


「女装もすっごく似合ってたのに〜!可愛すぎるよね」


「やだやだ。いなくなったらさびしーい!」


 多数の年上の女子生徒たちがフランを囲む。触れない。近寄れない。


 そしてクラスメイトもフランが女装し、こっそり学校祭に参加する計画に加担していたのだと知る。


「フランはめちゃくちゃ年上にもてるんやなぁ〜。まるで昔のアルみたいやな」


「嫌なことを思いださせるなっ!」


「人によってはええことなんやけどなぁ。アルの場合は災難やしなぁ〜」


 絶対に連れて帰る!そう思ったが、ヴォルフが大丈夫やで!と笑った。


「これだけ人気者のフラン坊ちゃんやから、必ず誰かが傍にいるんや。ワイも必ず付き添う。後少しだけあかんか?」


 フランもお願いしますっ!と頭を下げる。やれやれ……フランとヴォルフ、思った以上に気が合うらしい。オレが悪者じゃないか?


「……わかった。ただし、この出し物が終わったら帰る。いいな?シアが心配するから学校祭へ行ったことは内緒にするぞ」


 はいっ!とフランが嬉しい顔をした。オレとヴォルフは場違いながらも、フランが終わるのを部屋にいるウサギに囲まれて、待ったのだった。

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