第47話
『君の髪に触れたい』そんなセリフ。気持ち悪いとか思われたか!?絶対思われたよな!?そう数日間、モヤモヤしていた。シアは目が合うと少し躊躇って視線を外しているような気がするが、気のせいか!?大丈夫か!?オレ!?
バンバンバンッ!とこっそり一人で机に突っ伏して机を手で叩く。恥ずかしすぎる!恋をしたばかりの少年かってくらい!?
落ち着いて、仕事をしよう。オレは咳払いを一つしてから、冷静にいつもどおり、書類を机に置く。
「アル!大変なんやああああ!」
ヴォルフが叫びながら執務室に入ってきた。なんなんだよ?
「どうした?騒がしすぎるぞ」
「フランがおらんなってしもうたああああ!」
「はぁ!?護衛はどうした!?いや、ヴォルフだけじゃなくて、警備兵もいるだろう?」
「それがうまいこと抜けはったらしくてなぁ。おらんのや」
賢いフランは、オレが張り巡らせた警備や護衛の目など簡単にくぐり抜けるってことか。なかなかやるな……つい感心してしまったが、それどころではない。
「フラン坊ちゃんはいったいどこいったんやろ?」
オレは行き先は一つだなとすぐにわかった。
「学校祭だろうな。すぐに馬車を出せ!ヴォルフ行くぞ!」
今日は確か、フランが行きたいと言っていた学校祭がある日だ。オレとヴォルフとそれから公爵家の精鋭を密かに動かす。シアには内緒にしておこうと思った。彼女に言ったら心配で絶対に飛び出してくるからな。狙われているのはフランばかりではない。シアもそうなのだから、家にいてもらうのが、一番良い。
シリルがオレに頼まれたものを持ってくる。これをどうぞと渡してきたのは懐かしいものだった。ヴォルフがオレの顔を見た。
「学校の制服だ」
「めっちゃ懐かしいやん!!」
アハハと呑気に笑うヴォルフ。オレはさっさと着替える。
「なんや?アル。今でも似合ってるやん!生徒やってばれへんわ。アハハ!」
「筋肉バカも早く着替えろ。オレとおまえが今、普通に学校に入ったらどうなる?」
「……大騒ぎやな。先生に怒られてしまうんちゃう?怒られるのも、久々で懐かしくてええけどな」
冗談を言いつつ、ヴォルフも着替えた。せっかくの学校祭を台無しにしては申し訳ない。こっそりとフランを探そう。そうしつつも公爵家の精鋭はいつでも学校に乗り込めるように配置しておくことにする。
「いくぞ。生徒として振る舞えよ。目立つなよ」
学校につくと、すぐにオレは門をくぐる。偽物の学生証も完璧で、門の所も軽く越えられた。オレとヴォルフは生徒に紛れて、にぎやかな学校内を歩く。
「あんまり変わらへんな」
ニコニコとヴォルフは生徒の出す店を見渡す。丸くていい匂いのする焼き菓子をちゃっかり買って『フラン君知らへん?』と売り子の女子生徒に尋ねている。フットワークが軽い。
ところが、ここで予想外のことがおこる。なぜか売り子以外の女子生徒まで、わらわらと集まってきた。オレは体が固まる。女が多すぎる!ヴォルフをさりげなく盾にする。
「フラン君は今日はお休みって聞いてます。あの……何年何組の人ですか?」
「きゃあ!わたしも聞きたい」
「なんで今まで気づかなかったのかな?かっこよすぎ!」
「ねぇ?ほんとよー!素敵すぎるわ」
名前は?と再度聞かれたところで、オレとヴォルフは愛想笑いを顔に張り付けたまま、女子生徒の輪から逃げだしたのだった。
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