第44話
「ありがとう!皆のおかげで、とてもうまくいったわ」
私が帰ってきてから、すぐにお礼を言うと、公爵邸の皆はとてもうれしい顔をしてくれた。
「奥様はもともとお綺麗ですから!」
「そのお手伝いをしたにすぎません!」
そんな返事がメイドたちから帰ってくる。ジャネットがやったわねぇ!と私の手をとり、ぎゅっと握りしめる。
「あたしたちの用意した武器が役に立てて、なによりですぅ!」
美しさ、所作が武器になるなんて……もっと前々から勉強をまじめにしておくんだったと私は反省した。どんなものでもどんなことでも学習したことはいつか役に立つ時がくるのかもしれない。
「母様ー!!」
フランが私に抱きついてきた。後ろかヴォルフが待ってや〜!と追いかけてきている。
「ただいま!フラン、心配してたの?」
「嫌なこと言われませんでしたか!?嫌がらせは受けませんでしたか!?」
……どうやら、ものすごく心配していたらしい。必死に尋ねるフランが可愛い。
「フラン坊っちゃん、勉強も上の空でしたわ。無事に帰って来てくれはって、良かったわ」
ヴォルフがニコニコしながら、私とフランを見て言う。
「アルがいてくれたから平気だったわ」
だから体が震えそうな時も怖がらずに、皆の前で笑顔をふりまくことができた。
「陛下もオースティン殿下も元気にしていたわ」
そうですかとフランはそこは興味なさそうにあっさりと流した。私から離れて、ニコニコして私の前にいる。王宮に久しぶりに行ってきたというのに、この穏やかな心はなんだろう?フランの笑顔を見て、幸せを噛みしめる。
「そや!フラン坊っちゃん、ちょっと母様に上達してきた剣術を゙見てもらったらええんちゃう!?」
「あっ!はい!」
じゃあ、剣を持ってきてやー!とヴォルフが言うと、フランは慌てて賭けていった。フランを私から意図的に離した気がした。
「どうしたの?ヴォルフ?」
「あ、わかりました?奥様、ちょっと耳に入れておいたほうがええかと思いまして」
「なにか気になったの?」
人の良いヴォルフが顎に手をやって考え込むように言う。
「フラン坊っちゃんはええ子です。市井の学校へ行っても、身分をひけらかすこともせえへんし、使用人たちを見下して使うような真似もありませんわ」
そうねと私は頷く。私同様、王家の者として扱われず、冷遇されてきたから、身分は対してあてにもならないし、いざとなればペラッペラの紙のように頼りないものとわかってるのだろう。
「それなのに、馬車に乗って帰ってくる時に、二、三人のゴロツキに石を投げ付けられましたのや」
「なんですって?このことアルには……?」
「このことはアルバート様にも報告済みですわ」
「いったい……なぜ……?」
「馬車から降りて、ワイが追いかけようと思ったんですが、そうなるとフラン坊っちゃんが一人になると思い、動けへんで、逃がしてしもうた。申し訳ない」
私は困った顔をしているヴォルフに首を横に振る。
「いいのよ。フランの身の安全を一番に考えてくれたのよね。ありがとう」
「アルバート様とフラン坊っちゃんの周辺を調べてみますわ。また改めてアルバート様からお話があると思いますわ」
お願いしますと私が言った時、フランが木の剣を持って、ハアハア息を切らせて戻って来た。
「よーし!上達したところ、見てもらうで!」
ヴォルフに言われ、はいっ!と返事をするフラン。一生懸命、剣を振るフランと教えるヴォルフを私はにこやかに見ていたが、心のなかではフランを狙う誰かがいることが気になって仕方なかった。
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