第43話

 陛下のパーティーはシアとオレが夫婦であるというお披露目に成功したといっていいだろう。無事に終えたと満足して帰ろうとした時だった。背後からオースティン殿下の声がした。


「アル!待てよ!」


 青いドレスを着たシアが美しく輝く姿で振り返る。その姿をちらりと見たオースティンをオレは見逃さなかった。すぐに護衛として連れてきた従者に合図し、馬車へ乗せるように言った。我ながら用心深すぎるか?


「大丈夫ですか?」


 シアがオレを心配してくれる。いやいや、オレより自分の身を心配したほうがいいんじゃないのかと思うが、彼女はそういう人なんだよな。


「シア、先に馬車に乗っていてくれ。オースティン殿下が何か用があるようだし、陛下に挨拶をしてからオレは行くよ」


「は、はい……お気をつけてくださいませ」


 膝を少し曲げて、オレとオースティン殿下にちょこんと挨拶するシアは可愛かった。オースティン殿下が名残押しそうにシアの背中を見送っているが……なんなんだ?シアのことをあっさり捨てただろ!?今更返せとか言わないだろうな!?とオレはジト目になる。


「な、なんだ?その目は!?」


 オレの視線に気づいて、オースティン殿下が慌てている。顔にすぐ出るやつだなぁ。


「いや、なんでもない。それで、何の用でしょう?」


「うっ……別になにもないがっ……」


「どうせ用もないのに、先ほどの言い合いに腹を立てて、何か一言いってやろうと思っていたけれど、思い浮かばない……といったところでしょうか?」


 オレがニッコリ笑ってそういうと言葉を返せないオースティン殿下。図星かよ。


「じゃあ、こっちから聞きますが、イザベラ妃とは、最近うまくいってますか?贅を尽くしたい彼女にイライラしているとか?金品のおねだりが絶えないし、自分の家族を城に呼び寄せて勝手に暮らし始めたり、頻繁にパーティーをしたがるとか?」


「な、なぜそれをっ!?」


 同様する殿下。シリルに調べてもらったのだとは言わないでおく。


「シアがいなくなった今、殿下の愛を独り占めできると思ってイザベラ妃は本性を出してきてるんでしょうね」


「うるさい!おまえに関係ない!」


「確かにそうですが、今さらシアが恋しくなって、返せなんて言いませんよね」


「いっ、言うわけがないだろう?別れてすぐにおまえのところへ行くなど、尻の軽い女なんて必要ない!」


「そのわりに、変な客を公爵邸に入れてきたけどなぁ?」


「ななななんのことだ!?」


 そろそろからかうのを止めて帰るか。オースティン殿下がいちいち反応するからちょっと面白くなってしまった。


「じゃあ、これ以上愛する妻を待たせるのは悪いので、失礼します」


 オレはオースティン殿下にそう挨拶をした。


「本当に愛しているのか?」


 そう挨拶を返す代わりにオースティン殿下は尋ねてきた。


「もちろんです。愛していますよ」


 即答した。オレは演技が得意なんだ。シアを愛してると躊躇うことなく返事ができたし、仲の良い夫婦を演じられた。


 そうだ。『愛してる』という演技なんだよな?なぜか心の中で、自分に問いかけたくなってしまったのだった。

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