第40話

 オースティン殿下と会うことになるだろう。そうアルから伝えられた。


 私が浮かない顔をしていたのだろう。アルは気を遣って、もし無理だと思うならば行かなくても良いと言ってくれた。


 私はわかってる。大きなパーティーには夫妻で行くものだ。陛下のパーティーともなると余程の理由がなければ欠席などできないだろうし、やはり出席しづらいのだろうと皆に思われることは間違いない。まあ……出席しても何かを言われるのは変わらないだろうけど。


 でも、なによりもアルの立場を悪くしたくないし、一人で嫌な噂をされる場に立たせるなんてできない。


 私はよし!と気合をいれて、ジャネットに話しかけた。


「ジャネット、陛下の誕生日パーティーは気合いをいれていきたいの。あっ!でも着飾って派手にしたいっていうわけじゃないのよ。私、今までパーティーで素敵な女性を演じられたらいいなって思うの。アルに恥をかかせたくないのよ。力を貸してほしいの」


 ジャネットが奥様と呟く。そして目の奥が潤んでいて感動している。なぜ感動してるのかしら……。


「わかりますよ!可愛く美しくするということは女性にとって武器になります!このジャネット!!最高の腕を振るいますうっ!!もちろんっ、旦那様もそれに合うようにしますねっ!頼ってくださるなんて嬉しいですよっ!みんなぁ!会議よっ!作戦会議をひらくわよーぅ!」


 思った以上に、力強い言葉が返ってきた。そして服飾担当、メイク担当、マナーや所作、ダンス担当にわかれてのチームを作るジャネット。


「公爵家の名にかけて!やりますよぅ!あたしたちはワンチーム!」


 皆のエイエイオーと力強い掛け声が、聞こえたような気がした。気がしたのは気の所為よね!?熱すぎるスイッチいれちゃったかしら……。


 そんな燃えるジャネットとメイドたちによって、私は日夜磨かれることとなった。


 陛下の誕生パーティーの日はそうこうしているうちにあっという間にきた。出発する私とアルをフランが心配そうに見上げた。


「大丈夫だよ。母様のことはちゃんと守るから心配しなくてもいい」


「はい……お祖父様にも、よろしくお伝え下さい」


 アルがわかったよと微笑む。


「僕にもっと力があれば良かったのに」


 そう自分を責めるように言うフラン。


「フラン、私はあなたがいてくれるだけで十分なのよ。あの苦しい日々、気持ちを強くもてたのはフランのおかげなの。あなたがいなかったら王宮ですごす日々がどんなに苦しかったかわからないわ」


 私がしゃがみこんで、フランと視線を合わせると、フランは少し気恥ずかしそうな顔をした。


「いってらっしゃい。母様……お父様」


 お父様と言われて、アルが何かをかみしめるような表情をしたが、私はそっとしておくことにした。


 私とアルを乗せた馬車はそう時間がかからないうちに王宮についた。まさかここにまた帰ってくる日がくるなんて思わなかった。手と足が震える。


「シア」


 そう名を呼んでくれたのはアルだった。目が合うと、安心させるようにもう一度『シア』と名を呼んでくれた。


「さあ、戦いの場だ」


「戦いの場!?」


 アルがニッと挑戦的に笑った。


「そうだ。君とオレがどれだけ他の奴らに夫婦としてみせつけられるか?陛下の誕生バーティーにかかっているといっても過言じゃない。シアは今、幸せか?」


「えっ?は、はい。幸せです。美味しいもの食べられるし、アルや公爵家の人たちもよくしてくれるので、今までで一番幸せな日々をおくることができてます」


「なら、その幸せを皆に伝えるように笑顔でいるといい。不幸せな顔をしていると、輝きがなくなる。幸せな顔をしていると満ち足りた光が、その人から出るものなんだ」


「アルはちゃんと出てますね」


 いつもキラキラしてるもの。どこか人を惹きつけて、華やかで目立っている。


「出ているか?」


 そう聞き返して、アルはアハハっと笑った。少年のような笑顔に思わず目を奪われる。


「さあ、いざ!戦いの地へ行こうか!」


「いざ!……ですね!私もがんばります!」


 アルのちょっと変わった励ましに私は心が軽くなった。若くして公爵になったアルはこうやって自分の心を強く励まし、戦いの場に立っていたのだろうと思った。


 馬車を降りる時、手を差し出しかけて、アルはやめた。少し残念そうな顔をしたのは、私の思い違いだったのだろうか?

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