第31話

「そうや!ええでー!!その調子や!」


 庭でフランがヴォルフに剣で打ち込んでいる。剣の訓練をしているようだった。小さいフランはまだまだ剣に振り回されている感じがして可笑しいが、顔が真剣だから笑っちゃいけないと笑いを堪えて見守る。


「あ!お父様!」


「頑張ってるなぁ」


 褒めると照れる可愛らしいフラン。


「なかなか筋がええで〜!」


「そんなことありません」


 さらに照れるフラン。


「ヴォルフさんはすごいんです。木から葉っぱが落ちてきたのをきっちゃうんです!空気も斬る感じなんです。お父様も剣は使えるのですか?」


「使える。一通り武術は習ったな」


 フランの目がキラキラする。年頃の男の子らしい目だった。


「お父様とヴォルフさんはどっち強いんですか!?」


「そりゃ、ワイやろー。アルは公爵になってから、サボってるからなぁ。ワイは鍛えまくってるで!」


「おまえの鍛えるは、筋肉を鍛えるの間違いだろう?」


「そんなことないで!じゃあ、久しぶりに手合わせせぇへん?」


「やるか。確かにたまに手合わせをしておかないと腕が鈍るからな」  


 よっしゃー!とヴォルフが喜ぶ。フランより喜んでいる。本気ですると危険だから、模擬刀でする。


 周囲の使用人たちが、旦那様、危険ですから、おやめください!と止めてくるが、無視する。


「久しぶりやなぁ」


 ヒュッとオレは音をたてて、剣を振る。フランがお父様もヴォルフもがんばれー!と応援している。


 剣を真っ直ぐに構える。ヴォルフを見据える。相手もこちらを見ている。キュッと柄を持ち直す。


 先に地面を蹴ったのはヴォルフだった。切っ先が真っ直ぐ突いてくる。横に軽く避けれるものではなく、剣で弾く。懐に入ったオレはそのまま横に剣を倒してヴォルフの体に刃を届くようにするが、スッと体をずらされる。


「すごい!」


 観戦しているフランの声がした。オレもヴォルフもまだまだ余裕がある。


 何度か剣を交えるうちに互いに本気になってくる。


「うおおおおお!」


 力いっぱいヴォルフが打ち込んでくる。まともに受けたら腕ごとやられるため、軽く弾いて避けて流す。


「大振りだと脇が開くぞ!」


 そう言って、ヴォルフの腹をめがけて斬ろうとしたが、体を捻って逃げられた。


 シュッとオレは小さく素早く動く。ヴォルフが予想していたとばかりに剣を余裕で避ける。かかった!オレは足払いをかける。ヴォルフの態勢が崩れる。もらった!!と思ったときだった。


「あなたたち!なにしてるの!?やめなさーーいっ!!」


 その声でピタッとオレとヴォルフの動きは止まった。


 誰か使用人が見て呼びに行ったのだろう。シアが駆けつけてきた。


 オレとヴォルフの傍にツカツカと歩いてきて、交互に顔をみる。そしてフランも。


「えっと……母様……」


 フランはまずい!と察したようだ。その様子を見て、オレとヴォルフもまずい!と察した。


 なぜなら、普段は見せないような厳しい顔をシアがしていたからだ。


「何をしてるんですか?訓練の域を越えてますよね?3人とも危ないことは駄目ですっ!!」


 ビシッとした声にオレたちは『はい』と返事をするしかなかった。『男の子はたくましく』とか言おうもんなら、『危険なことにかわりはありませんっ!』と怒られそうなので言わずにおこう。それに心配してくれたのは間違いないことだからな。


「怒ってるシア様も可愛ええ………っ!!」


 空気を読まずに、褒めて場を和まそうとしたヴォルフがシアに厳しい目を向けられ黙った。ヴォルフ!やめておけ!と心のなかでオレは叫んだ。


 貴族の既婚男性達がよく言う言葉がある。


『妻には逆らうな』


 ……。


 ………そうオレも思うよ。


 ヴォルフ同様、怪我をするんじゃないかと心配し、シアが可愛く怒ってる姿も悪くないけどねと思ったけど、心のうちに秘めておこう。




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