第26話
私が目を開けると、フランが心配そうにのぞき込んでいた。
「母様!大丈夫ですか!?」
「フラン……?」
ジャネットがそっとフランの肩に触れて、安心させるようにいる。その後ろにはフランの護衛としてヴォルフが控えているのが見えた。
「お医者様が言ってましたが、シア様は過労ではないかということです。すごく体が弱ってると……夜、寝れなかったんですか?」
寝れなかったやけじゃないわと唇を動かそうとしたが、グルグルと世界がまわっていて、目を開けていられなかった。
今は休ませてやるのがええわとヴォルフが言う声がした。フランがとても心配しているのがわかる。……頑張るつもりが、悪いことしちゃったわ。フランごめんね。そう思いながらも意識は深いところへと沈む。
私はどのくらい寝ていたのかわからなかった。眠ると嫌な夢を見るから起きたいのに、なかなか自分の意思で起きれなかった。
「シア!シア、大丈夫か!?」
フラン……ではない。男の声だけど、オースティン殿下でもない。だって、あの方は私をこんなふうに心配したりしないもの。誰……。
「なぜ、こんなに疲労してたんだ!?」
「あたしがついていながら、申し訳ありません」
「健康管理はおまえの仕事だ。頼んであったよな?どういうことなんだ?」
「申し訳ありません!」
私は思わずパチッと目を開いた。これは旦那様のアルとジャネット!!
「怒ってるの?」
「シア、目を覚ましたのか!?」
アルが私のベッドのそばに駆け寄る。
「私のせいなの……怒らないで……ジャネットのせいじゃないの。私が悪くて……ごめんなさい」
「どういうことだ?」
アルとフランの目がじいいいいっと私をみつめる。言わずには居られない雰囲気だった。
「あの……実は私、心配してて……もし捨てられたら、必要なくなったら一人で生きていけるようにとか……公爵夫人として恥ずかしくないようにしなきゃとか」
『なんでそんなことを思うんだ!』『なぜそんなこと思うんですか!』
アルとフランの声がハモった。私がしゅんとしたのを見て、アルがうーんと唸った。そして皆に言う。
「フラン、ちょっと部屋の外に出ていてくれ。ヴォルフ、ジャネットもだ」
え!?とフランは少し不満そうだったが、言われた通り、出ていった。部屋には私とアルだけになった。私が心配していることが何なのかアルは気づいたようだった。
「それで、陛下はなんとおっしゃってましたか?」
「結婚は認めてくれる。フランのことはやはり王位継承権があるから気にしていた。しかし公爵家にいることを許可してもらえたから大丈夫だ」
「そうなんですか……ありがとうございます。がんばってくれたのでしょう?」
「いいや」
首を横に振るアル。だけど、私とフランのことをすんなりと陛下に通してこれるわけがないわ。きっと簡単ではなかったはず。
「本当は私が行って話さなきゃいけなかったのにアルに任せてしまって……」
いいんだとアルは優しく微笑んだ。
「一人で頑張ることに慣れるな」
ハッと下をうつむきかけたが、私は顔をあげる。
「もう一人じゃないはずだ。オレは契約上の旦那かもしれないが、シアの力になれるだろう?頼りないか?」
「いえ!いいえっ!そんなことはけっしてありません!」
それならよかったとアルは言い、触れることのできないアルは私の手の上の掛け布団の布越しに手を重ね、目を見て微笑んだ。
手から熱が伝わらないはずなのに、手の上に置かれていると思うと、なんとなく温かい熱量を感じた。本当にこれは契約なのよ。だから好きになっちゃいけないのよ!
私は自分に言い聞かせるのだった。良い旦那様を演じるアルは本当に危険だわ。こんなに私をドキドキさせるもの。アルは演じているの……よね?
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