第23話

 シーンとした空気がオレと陛下の間に流れる。先に口を開いたのは陛下の方だった。


「確認するが、ほんっとーーに、イヤイヤ結婚したのではないのだな?」


「もちろんです」


「ふむ……そうか。それならば、しばらく様子を見よう」


「ありがとうございます」


 オレは一礼し、これ以上聞かれる前に去ろうとした。……が、陛下は止める。


「待て待て。フランのことだがな?」


 ……やはりそこか。さりげなく話題にしないようにし、逃げようとしたのかわかったか。


「王位継承権のあるものを王家外に置いておくわけにはいくまい?」


「しかし、いらないんでしょう?そうオースティン殿下がいったそうですが?」


「おまえも知ってると思うが、オースティンは少し短絡的なところがある。なにも考えておらずに言ったことだ」


「……将来、王となる者が、一度口にしたことを覆すことは可能なんですか?陛下は政を行う時、決めたことをコロコロと覆し、自分の思う通りに動かすのですか?」


 い、いや……と怯む。


「そして、ここでフランを守れますか?」


「どういう意味だ?」


「失礼ながら、シアとフランは王家であまり良い扱いを受けていなかったと見受けられました」


 うっ……と言葉に詰まる陛下。知っていたんだな。この王は正直すぎる。顔に出やすいし、優しい気質だ。オレはそれを今から利用しようとする。一番悪いやつはオレかもしれないなぁ。


、それは建前なんです。オレの本心を聞いてもらえますか?」


「なんだと??」


 オレは演技がかった悲しいふりをする。


「両親を早くに亡くし、オレは寂しく暮らしてました。シアやフランが傍にいてくれたらどんなに幸せかわかりません」


「アルバート……」


「叔父上、どうかお願いします。オレの心を慰めるためにも、二人を任せてもらえませんか?一緒に暮らしてみて、こんな明るい家族がいてくれたらという思いが募ってきて久しぶりに家族っていいなと思える時間が持てたんです」


 くっ……と涙をこらえる仕草をいれる。


「わ、わかった!わかった!泣くなよ!?アルバート……よほどだな。両親が亡くなったときすら泣かなかったおまえがそんなに悲しそうならば、わたしも考えずにいられまい」


「ありがとうございます。の温情にオレは感謝します。


 叔父を連発する。


「良いだろう。しかし条件がある」


 簡単にはいかないか。そりゃそうだろうな。と心のなかで呟く。


「フランが自ら『王家に戻る』と言った時は帰すように。それが条件だ」


 それはないだろう。意外と簡単な条件だったなと、そう思い、オレはわかりましたとニッコリ笑って返事をした。


「その叔父上と懇願するアルバートに弱い。わかっていて、してるだろう。やれやれ……」 


 陛下はオレの演技をお見通しだったらしい。さすがにバレるか。それでも追い打ちをかけるようにオレは言った。


「わかっていながらも、オレの気持ちを汲んでくれる叔父上……大好きですよ」


 そのオレの一言で、陛下は落ちた。顔を見ると嬉しさで、頬が緩んでいるのだった。


 これでシアとフランのところへ安心して帰れる。そう思ったのだった。

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