第18話
アルに必要とされ、期待されてるんだもの!私、頑張らなくっちゃ!はりきって本を開く。
「シア様、そんなに本を抱えて、無理なさらないでください」
「明日までに読んでしまいたいの」
ジャネットが無理でしょう!?無理しないでくださいよ!と止める。
「それより、後、もう少し授業を続けてくれる?」
「ずっと授業をしているので、一旦休憩しましょう?学校でも休憩時間はあるのですからしっかりとりましょうよ〜」
お茶を持ってきますねというジャネットに私は待ってと服の裾を掴む。
「私、まだ大丈夫よ」
「お昼ご飯も食べてないでしょう!?」
「お腹空いてないもの」
時間が惜しいわと歴史、マナー、貴族たちの名前などを記憶していく。もっと、私、記憶力が良ければいいのにと自分の能力の低さに悔しくなる。でも一回でだめなら二回。二回でだめなら三回よ!負けないわよ。闘志を燃やす。
「シア様は何と戦ってるんですっ!?旦那様はそこまでがんばれとは言ってませんよぉ!?」
「私、ここまで人から必要としてもらったのは初めてかもしれないの。あの時、馬から落馬して怪我をすることを覚悟したわ。だけど、まさか守ってもらえるなんて思わなかったの。すごく……すごくうれしかったの。それがたとえ……」
たとえ、アルが私のことを好きや愛してるという理由で守ったのではなかったのだとしても。彼の人生設計に必要だという理由だったとしても。
こんなに大切にされたのは生まれて初めてだもの。立派な公爵夫人を演じたいの。アルが自慢できるような公爵夫人になってあげたいわ。
「無理、なさらないでくださいね」
「わかってるわ。じゃあ、次は何をする?」
ジャネットが嘆息しつつ、次の講義を始めてくれた。私は書いたり質問したりし、フランが帰ってくるまで、ずっと勉強し続けたのだった。
「ただいま!母様。うわー!この本と紙はなんですか!?」
「おかえりなさい。もうこんな時間なのね」
フランが私の様子を見て、驚く。
「もしかして僕より勉強してるかもしれません」
「そんなことないわよ。フラン、学校どうだった?」
ニコッとフランは笑った。少しだけ子供らしいヤンチャそうな顔になる。
「楽しかったです!同年代の友だちと話をしたり、休み時間に駆けまわったりするのが、すっごく面白い!友だちもできました」
「あら!よかったわ。」
以外に社交的ねと笑う。ドアがトントンとノックされた。
「夕飯には早いけど……」
ジャネットが顔を出した。
「旦那様がお呼びです。フラン様の新しい警護兼家庭教師の方を紹介するとのことです」
フランが新しい??と首を傾げた。
「あ、そうだったわ。フランにアルが推薦する警護と家庭教師ができる人をつけてくれるそうよ」
「えええ!?僕は警備とかいらないですけど……」
そうもいきませんとジャネットが笑う。
「いまやフラン様は大事な公爵家の坊ちゃんなのですから」
そして王家の血が入っているんだからとまったく自覚しないフラン。まぁ、いらないとあんなに簡単に父親に母子共々、捨てられれば、自分は大したことない人間なんじゃないかと思ってしまうだろうけど。フランもまた自分のことをさほど必要とされない人間なんだなと自分で感じてしまっているようだった。
「それにとても面白い人ですよ。まぁ、あたしとは気が合いませんけどね」
ジャネットはそう言いながら、私とフランをアルの執務室へと案内してくれた。中から誰かと話す声がした。
旦那様、失礼いたしますとジャネットが声をかけ、ノックをするとピタリと話し声はやんだ。
「失礼します。お連れしました」
やあ!と明るく手をあげたのは、フランの新しい家庭教師だった。
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