第13話
「少し遊んであげてちょうだい? 殺しちゃダメよぉ?」
その命令に従い、堕天使の1体がリュージに向けて幾重にも閃光の魔法を放つ。しかし、リュージは避けることなく真っ向から飛び込んでいく。
「それは、俺には効かんよ」
その言葉通り、リュージに向けられた魔法は彼に当たる直前で出現した魔法陣に弾かれ消えた。
「リュージちゃん、ちょっと狡くないかしらぁ? それじゃ当たらないじゃなぁい?」
「これは俺にも制御ができん。オートで勝手に発動しちまうんでな」
リュージに攻撃魔法は当たらない。それは彼が持つスキルによる魔法の絶対防御。これに関しては得たと言うよりはいつの間にか備わっていたスキルだ。討伐任務で攻撃魔法を食らった際に気が付き、それ以降本人の意志とは全く無関係に自動で発動し続けている。
術を放った堕天使に向け、リュージも負けじと上空に向け剣圧を放つ。しかしひらりと避けられてしまい、苦々しく舌打ちをする。
「狡いのはお前さんたちだろう? その羽のせいで攻撃が当たらんじゃないか」
「お互い様でしょう? でも、リュージちゃんに当たらなくても、その子たちはどうかしら?」
先程の堕天使が、再度閃光の魔法を放つ。それはリュージを避けて後ろにいるルシードたち目掛けて突き抜ける。その代わりに、動きのなかった堕天使がハルバードをリュージに向けて振り翳す。
「直接攻撃なら、リュージちゃんにも当たるでしょう?」
「逆にそれを待ってたよ。間合いに来てくれりゃ、攻撃も当たるんでなぁ!」
攻撃をいなしながら、堕天使の後ろを取る。一瞬よろめいた隙を見逃さず、リュージはその刀を振るう。
「伏せ、だ」
美しく弧を描いた太刀筋は、黒く羽ばたく羽を落とし堕天使を地に這わせた。尚も攻撃を仕掛けようと獲物を離さない堕天使にとどめの一撃を食らわせる。
「随分と躾のなっていないペットだな、インウィディア」
「リュージちゃん相手じゃ持たないわよねぇ……仕方ないわ」
手駒を1体潰されても表情すら変えず、インウィディアは微笑んでいた。
「あの子は放っておいていいのかしらぁ? 防戦一方みたいだけど?」
「あれは躾がなっていてな、言いつけは守るんだ。それが駄犬相手に負けるとでも?」
堕天使からの魔法に防戦一方に回っているように見えるが、防御の合間に的確な魔法攻撃で相手の体力を削っている。子供3人を守りながら市街への被害を最小限に抑えての攻防に、本当に器用な男だと関心してしまう。
「墜ちろ」
ルシードの放った魔法は堕天使の身体を貫き、それが致命傷となり地に堕ちて絶命した。つくづくこの男が味方で良かった。敵であれば、これほど厄介な相手はいない。
「さあ、どうする? あとはお前さんだけだぞ?」
「ふふ、本当に躾けられたいい子ねぇ。ますます欲しくなっちゃったわぁ」
残るはインウィディアのみだが、この妖魔の実力は計り知れない。今まで歴代の総帥たちも、この妖魔を何度も取り逃がしているのが良い証拠だ。
「じゃあ、次はこの子と遊んでくれるかしら?」
インウィディアの背後に巨大な魔法陣が出現した。そこから現れたのは巨大な竜。身体の所々が腐敗し、骨がむき出しになっている死竜だった。
「っのやろう……そんな大きなペットは国内に持ち込み御免こうむるぞ」
「リュージさん! こちらへ!」
死竜の全体が魔法陣から姿を現す。禍々しいその姿から漂うのは瘴気。いくらリュージとはいえ、生身でそれに長時間充てられ続ければ致命傷になりかねない。それを察したルシードがリュージを自分のもとへ呼び寄せる。
「いや……いい。お前は子供を守ることに専念しろ。俺への配慮は不要だ」
「ですが!」
「ほらほら、そんなことしてると食べられちゃうわよぉ?」
くすくすと笑うインウィディアとは対照的に、死竜は地を這うような咆哮を上げる。今までの実戦経験が多く、総帥という肩書きやスキルを持つリュージとはいえ、正直死竜を相手にするのは些か骨が折れる。守る対象がいなければルシードと2人でどうにか対処できた可能性はあるが、タラレバを話したところで仕方がない。
「ルシード! アレを仕留める神聖魔法を発動するまでに、どれだけ時間がいる」
「……1分、いえ、40秒でどうにかします」
「ならば、その間の守りは俺が引き受ける」
リュージは精神を集中し、身体強化のスキルを使用する。長時間は持たないが飛躍的に身体能力は向上するため、リュージにとっては奥の手でもある。
アンデット系の魔物に有効なのは聖なる神聖魔法。それを使用できるルシードならば、この状況を打破できる可能性が高い。一撃で仕留められずとも、深手を負わせることくらいはできるだずだ。ルシードが術の詠唱や構築を完成させるまでの間、リュージは死竜からの攻撃を一手に引き受ける。
「ほんと、色々面倒くさいスキルばっかり持ってるのねぇ……まだなにか隠してるでしょう?」
「この世界で生きるにゃ、これでも足りんよ」
魔物に脅かされる世界では、こんなスキルでは足りないくらいだ。正直、このスキルは刑事時代に欲しかったと何度思ったことか。
インウィディアは相変わらず見ているだけで動く様子はない。今はそれに感謝しながら、リュージは目の前の死竜が繰り出す黒炎を躱して体力を削っていく。近付きすぎれば瘴気によってダメージを負うため、決定的な一打を入れることができない。その間にも、死竜はその鋭い爪と牙でリュージを襲う。
「っ、ぐぅ!」
繰り出された重たい一撃を刀と強化された肉体で受け止めるが、ビリビリと脳天からつま先まで駆け抜けていく衝撃。強化された肉体でこれほどのダメージなのだから、早々に手を打たなければ中々に厳しい状況だった。
(たった数十秒がこんなにも長く感じるとはな)
ほんの一瞬が、まるで永遠のように感じる時間だったが、背後から強力な力を感じてリュージは死竜の前足を押し退けて後ずさる。
「……深淵より蘇り我が前に立ちはだかりし亡者よ。我が身に宿る聖なる力により、汝の魂を浄化せん。我が呼び声に従い深淵へと還れ!」
ルシードの詠唱と共に周囲に神聖な気配が満ちていく。
「ディヴァイン・ペネトレイト!」
それと同時に天空から幾重にも重なった魔法陣が現れ、光の槍が死竜に降り注いだ。
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