第11話

「ルシード兄ちゃん! ダメだよおじさんをこまらせちゃ!」

「そうだよ! よわいものいじめしたらダメっていったのルシード兄ちゃんだよ!」

「おじさんこまった顔してるよ、ルシード兄ちゃん」


 向き直った瞬間、ルシードの背後から子供3人が現れ、彼に向かって勢いよく飛びついた。あまりに突然の出来事に、リュージは唖然としてその光景を眺めていた。


「お前たち……いきなり人に飛びついたら危ないだろう」


 背中に飛び乗ってきた威勢の良い子供が落ちないように支えながら、そう注意する。しかし、子供たちはそれよりもルシードがリュージを困らせていたことに対して口々に文句を言っている。


「それに、困らせていたわけでは……」

「いやぁ、正直返答には困らされていたが?」

「ほら! やっぱりおじさんこまってた!」


 そらみたことかと、子供たちは勝ち誇った顔をした。その様子から察するに、この3人の子供はルシードと親しい間柄なのだろう。


「坊主たちのお陰で助かったよ」

「ほんとう? やった!」


 子供たちの出現により、先程までの場の空気はどこかへ消え去ってしまった。小さな頭を撫でてやれば、子供は目を細めて喜んだ。よく見れば、この子供たちの腰には木で作られた剣が携えられている。


「それで、この子らはお前さんの知り合いか?」

「近所の子供たちですよ。どうしてか懐かれてしまいまして……」

「ぼくたちルシード兄ちゃんに剣じゅつをおそわってるんだ!」

「おじさんもルシード兄ちゃんのおともだち? ルシード兄ちゃんすごく強いんだよ!」

「おじさんは剣もってないの? 軍人さんじゃないの?」


 興味の対象がリュージに向いたのか、腰の剣を見せつけながら矢継ぎ早に喋りだす。


「こら、お前たち」

「かまわんよ、子供はこのくらい元気があった方が良い」


 リュージの立場など知らない子供たちは、次から次へと質問を繰り出してくる。それに慌てたルシードが制止しようとするが、大人の事情を子供に押し付けたところで仕様がない。


「おじさんはルシード兄ちゃんのお友達だよ。俺も軍人さんだな」

「剣もってないのに?」

「今日はおじさん休みだからな。剣はなくても良いんだよ」

「ねぇねぇ、おじさんは強いの?」

「どうだろうなぁ。そこのルシード兄ちゃんの方が強いと思うぞ」

「魔法もつかえる?」

「残念ながら、おじさんは魔法は使えんな」


 更にあれこれと質問攻めにされるが、邪険にすることなくリュージはその都度子供たちの質問に答えてやる。しばらくすると満足したのか、にこにことしながら飛び乗っていたルシードから下りる。


「ぼくたち将来軍人になりたいんだ!」

「おれは将軍になる!」

「そうすいってこの国をまもってくれてるんでしょ? ぼくはその人のお手伝いしたい!」


 このキラキラとした純粋で眩しい子供たちは、自分たちの将来の夢をリュージに語る。それをうんうんと頷きながら、リュージは楽しそうに聞いていた。所々総帥を推すようは発言が飛び出してくるのは、横に居るルシードに問い詰めたいところだ。


「お前さん、変な刷り込みをしちゃいないか?」

「軍人が総帥閣下に憧れるのは、当然のことですよ?」

「それにしても、お前さんが子供の面倒をみているとはなぁ……」

「この子たちが将来閣下のために働く、優秀な兵士になる可能性もあるでしょう?」


 とてもいい笑顔でなにも間違っていないと押し切るルシード。リュージはこの子供たちが、将来軍人になったらルシードのように重たい男にならないことだけを静かに祈った。


「ねぇ、ルシード兄ちゃん! 今日も剣じゅつおしえて!」

「ぼく魔法おしえてほしい!」

「俺も教えてもらいたいもんだなぁ、ルシード兄ちゃん?」

「一緒に悪ノリしないでくださいリュージさん……あなたには俺から教わるようなことはないでしょう」


 子供たちに便乗するように乗っかれば、ルシードが困ったように眉をハの字に下げる。


「魔法やお前さんの太刀筋は、正直見習うことのほうが多いもんだぞ?」

「ご謙遜を……」

「このあとの予定もないんだ。将来有望な兵士のために、剣術でも教えてやったらどうだ? ルシード兄ちゃん?」


 リュージの言葉に観念したのか、ルシードが立ち上がって子供たちの相手をしてやる態勢に入った。


「おじさんもいっしょにやろう!」

「そうだよ! おじさんもルシード兄ちゃんみたいに強くならなきゃ!」

「……ということらしいので、リュージさんもお付き合いくださいね?」

「そうだなぁ。じゃあ、おじさんも混ぜてくれ」


 その辺に落ちていた適当な大きさの木の棒を拾い、よいしょと立ち上がる。


「ちなみに、この子たちの体力は底なしなので……頑張って相手をしてやってくださいね」

「……善処しよう」


 これは久しく経験していなかった筋肉痛というものを味わうのではと、そんなことを考えながら輪の中に加わるのだった。

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