第8話
「リュージさんが異世界人というのは、本当の話だったんですね」
「あぁ、そうだよ。おれはヤマトさんと同郷の異世界人ってやつだ」
ヤマトが調理場で料理を作っている間、ルシードが少し静かなトーンでリュージに問いかけた。
「お前さんと始めてあったあの日、俺はこの世界に来たんだよ」
「あの日、ですか……!」
「そ。なにがなんだかわからんまま、お前さんを抱えて走ってた」
当時を思い返しながら、あのときは我ながらよくやったと褒めてやりたくなった。
「あんなに圧倒的な強さで魔物を薙ぎ払っていたのに?」
「元々荒事にゃ慣れてたからなぁ。あとは無我夢中だよ」
「この武器を生み出したのも……」
「気がついたら手の中にあったってやつだ」
ルシードは腰に帯刀していた刀にチラリと目線を向けた。それは今でこそルシードが使っている武器だが、元はリュージのものだった。
その刀も、正確にはリュージの持ち物ではない。特殊な力……所謂【スキル】という能力でリュージが作り出したものだ。
この世界で生きる者には当たり前に備わっているスキル。リュージはこの世界出身ではないが、異世界から転移してきた影響なのか、そのスキルを得ることができた。スキルの中でも殊更珍しいとされる、ユニークスキルというものを。
「あのときルシード……お前さんに会わなけりゃ、俺はとっくに野垂れ死にしてたよ」
あとから知ったことだが、このユニークスキルというものは誰も彼もが得られるものではないらしい。所謂特殊能力。土壇場で得たその力を使い、リュージは異世界での1日目をどうにか乗り切ることができたのだった。
「そっくりそのままお返ししますよ。リュージさんがいなければ、あのとき死んでいたのは俺もですから」
「お互い様ってやつか」
「そうですよ。それに……」
ルシードは腰の刀を愛おしそうにひと撫でし、視線をリュージに向ける。
「それに?」
「あなたがいたから、俺は生きる目的を見つけられたんです」
「ははっ、それじゃあ本当にお互い様だ」
「お2人とも、仲が良いのですね。はい、お食事の方お待たせしました」
こういう空気の読めるところも日本人ならではなのか、ちょうど良く話の切れ目にヤマトが料理を運んできた。
並べられたのは、店主のオススメの魚の煮付けと白米、味噌汁といった向こうの世界では日常的によく食べていた定食だ。この世界にも似たような食べ物はあるが、ここまで再現できているのを見たことがなかったリュージは感動さえ覚えた。
「まさか……ここで煮付けの定食を食える日が来るとは思わなかった」
「ルシード坊やもどうぞ」
「ありがとうございます」
ルシードが頼むいつもの料理というのは目玉焼きの乗ったハンバーグにタルタルソースが添えられたエビフライ、ナポリタンのパスタと彩り鮮やかなサラダが並んでいるプレート。どこか懐かしいそれは、記憶の中にあるお子様ランチと重なった。新幹線のプレートや旗がついていないだけ、まだ大人といったところだろうか。
「だから坊やなのか、ヤマトさん」
「可愛いものじゃないですか? さぁ、冷めないうちにどうぞ」
なんのことかわかっていない様子ではあるが、それでもなにかを察したルシードはもの言いたげな表情を浮かべながらもにこりと笑っている。
「リュージさんとヤマトさんにしかわからない会話というのにも、俺も興味があるので教えていただいても?」
「世の中には知らなくて良いこともあるぞ? この話はまさにそれだ」
「ルシード坊や、これはあなたにサービスですよ」
話を逸らすためにヤマトがルシードに差し出したのは、これもまた坊やの要因になりかねない生クリームとさくらんぼが乗せられたプリンだった。ここで笑うのをグッと堪えたリュージは拍手ものだと自画自賛する。
「リュージさんにはこちらのサービスですよ」
「こいつは……日本酒?」
料理の横に置かれたのは、徳利と御猪口。ここに来てから驚きの連続だった。料理にしろ、酒にしろ、リュージはこの世界で自分の国の料理など一度も口にしたことがなかった。なのに、この店はいとも容易く故郷の料理を振舞う。
「これからお仕事でなければ、どうぞ召し上がってください」
「ありがたく頂くよ! 今日が非番でよかった」
一口含めば上品でやさしい香味が口いっぱいに広がる。久しく味わっていなかった故郷の酒を飲みながら、故郷の料理を味わう。ほんのひとときの間だが、元いた世界にでも帰ったような懐かしさがリュージの中で満たされていった。
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