星の輝き
「やったー!キャンプファイヤー!」
朱音は飛び上がり、ぴょんぴょんと大きくジャンプをして喜んでいる。先ほどのゲームで一位になったため、キャンプファイヤーを一番前で見ることができるのだ。朱音は1ヶ月前から楽しみにしていたから、喜びもひとしおだろう。
「はいはい。落ち着いてね、危ないわよ。」
輝姫はクスリと笑って、朱音をなだめた。あまり喜びすぎると、体力が最後まで保たないだろう。いや、朱音なら大丈夫かもしれない。
「だってー!キャンプファイヤーだよ!?」
瞳をキラキラさせて、朱音は輝姫に迫った。目の前では、キャンプファイヤーの準備がすでに終わっていた。高く積み上がっている薪は、キャンプファイヤーでの炎が大きくなるであろうことを示している。日が落ちて辺りはすでに暗くなっているが、火がつく様子は見られない。朱音は気づいていないが、おそらく今日はキャンプファイヤーはできないだろう。
「生徒の皆さんに連絡です。今日は湿気が高く、薪が湿ってしまっているため、キャンプファイヤーは取りやめとなる可能性があります。」
輝姫が考えていたちょうどその時、先生からのアナウンスがあった。いやな予感がして、輝姫はちらりと隣を伺う。
「えー!?」
予想はしていたが、朱音は不満を声に出して叫んだ。一応耳を塞いでいた輝姫はそこまで被害を受けなかったが、反対側にいた透馬は少し反応が遅れてしまったため、朱音の大きな声が耳を直撃した。
「うるさいよ…まぁ気持ちはわかるけど。」
透馬の言葉に、輝姫は少し俯いた。魔法が使えれば、と思ってしまう。考えても意味のないことではあるのだが。
「火がついてくれればいいのになぁ〜。」
本当に残念そうな朱音の声に、輝姫は思わず指をパチンと鳴らした。その瞬間のことだった。
「火がついた!」
クラスメイトの誰かが叫んだ。輝姫も思わず顔を上げて目の前の薪を見る。確かに赤々とした炎が揺らいで、辺りを煌々と照らし始めていた。
「やったー!」
だんだん大きくなる炎に、朱音は今度は歓声をあげた。透馬も、満面の笑みでキャンプファイヤーを見ている。しかし輝姫は、素直に喜べなかった。伏せた瞳に作られた影は、炎でゆらりゆらりと揺れた。
「輝姫、どしたの?」
あまり楽しそうな雰囲気を出していない輝姫に気づいた朱音は、輝姫の顔の目の前で手をブンブンと振った。
「ん…」
反応が鈍いので、朱音は小首を傾げた。そして今度は、輝姫の前に回り込む。さらにその肩を掴んで、ガクガクと揺らし始めた。
「輝〜姫〜!戻ってこ〜い!」
揺らされた衝撃で輝姫は思考の海から浮上し、やっと目の前の朱音を見た。そのまま後ろにのけぞる。
「ち、近いわよ!」
なんと輝姫と朱音の鼻と鼻の間は、わずか五センチ。輝姫がのけぞるのも、無理もないことだった。
「ごめんごめん。なんか輝姫ぼーっとしてたからさ〜。元気出た?」
気を遣われてしまっていたと理解して、輝姫はにこりと笑った。心配をかけてしまうと、体に悪い。
「…?大丈夫よ、ありがとう。」
輝姫は自分の思考に少し疑問を覚えながらも、朱音から視線を外して大きな炎を見た。黒々と見えているのは、焦げた薪だろうか。朱音が元の位置に戻ったのを確認して、輝姫は炎の先を見た。煙が立ち昇って暗い空をわずかに明るくしており、星は見えにくくなっている。
キャンプファイヤーも終わり、部屋に戻って朱音が風呂に入っている間に、輝姫は置いてあった椅子に座って先ほどのことを思い出していた。パチン、と指を鳴らした途端についた火は、煌々と燃え盛っていた。じっと指先を見つめる。
「今もまだ、使えるの…?」
輝姫は思わず呟いて、それを否定するかのように首を振った。グッとスカートの裾を掴む。
「そんなわけ、ない…」
この世界には、魔法なんてものは存在しないのだから。だから、きっと気のせいなのだ。あれは、たまたまだろう。輝姫は、立ち上がってカーテンを開けた。シャッと小気味良い音がする。
「北極星かな…?」
漂っている雲の隙間から、輝く北極星がのぞいた。夜の闇の中で唯一輝くその星は、たまに雲に隠れながらもずっと輝き続けていた。
次の更新予定
空が晴れたら、夢よ咲け 華幸 まほろ @worldmaho
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