リセット・リミット 時空を越えし者、現実を繋ぐ鍵
伊集 ひろ
第1話
真夜中の都市。雨に濡れた道路がネオンの光で煌めき、その中を一人の若い女性がゆっくりと歩いていた。彼女の足音が静かに響くその雰囲気は、まるでどこか遠くに隠された秘密があるかのようだった。突然彼女は僕の目をじっと見つめながら、足音を近づけてくる。
「すみません、ここってどこかわかりますか?」
彼女はスマホの画面に映し出された複雑なマップを見せてきた。そのマップは迷路のように絡まり合っていて周囲の暗闇とまぶしいネオンが入り混じって、目が痛くなる。しかしそのマップにはどこか見覚えがあった。いや、見覚えしかない。なぜならそこは僕の実家だったのだ。
「ああ、それなら僕についてきてください。実家なんで。」
「本当ですか!?ここにある店がとても気になっていたんですが、場所がわからなくて…。ここの店の人と偶然出会えてよかったです!あ、私の名前は“前城冬華”って言います!」
「あ、はい…。」
彼女の言う理由がわからないわけではない。なぜなら僕の姉貴が経営しているカフェは路地裏の奥にひっそりと隠れている。
僕は彼女の言う通り、道を案内した。店が家みたいなものだから、閉店する予定であっても姉貴に頼めばちょっとばかし開けてくれるだろう。
人ごみを抜け、人通りのない狭い道に入った。そこには、僕と彼女の小さな足音がコツコツと響くばかりだった。
「本当にここなんですか?」
「はい…僕の姉貴の店は本当にわかりにくい場所にあるんです…」
「ところで、なぜこんな夜中に行くんですか?そこまで特別なものがあるわけでもないのに閉店してる可能性もあると思うんですが…」
「だめですか?」
「いや、別にいいと思いますけど…。」
僕と彼女の間に少し気まずい空気が流れる。でも気まずいのは僕だけかもしれない。なんやかんやで目的地に到着する。
「彼女連れてきたのか?」
1階のカフェに入ると、掃除をしている姉貴の第一声が飛び交う。
「そんなわけねーだろ。お客さんだよ。店の場所がわからないから案内したんだよ。」
「めんどくせーな。彼女持ち帰ってくんなよ」
「だから…!」
僕が誤解を解こうとしたその瞬間、彼女が僕に囁いた。
「助けて…!」
「え?」
◆
いつのまにか俺は溺れるような感覚に陥って目を覚ました。
夢の中での出来事だった。幻想と現実が交錯するこの場所で彼女の言葉は僕の心に深く刻まれた。
まったく意味不明な展開。自分が知らない人物。どこかわからない場所。時間感覚もまったくない。一瞬の展開。知らない自分。まるで他の人に生まれ変わったような。
カーテンを開いたままの窓から光が飛び交う。
「またか…」
そう独り言をつぶやいてしまうほど現実的な夢をみる。この夢は今日が初めてではない。
肌寒さが増してきたので、冬服に着替えて急いで学校へ向かう。学校まで少し距離があるためいつも通り電車を飛ばし20分。校門をくぐる。小さな下駄箱に靴をしまい教室へ直行する。時刻は授業の5分前の予定だ。
「朝ごはんは?」
そんな風に、いつも通り急いでいる俺に義母が声をかけてくる。母も早めに会社に出張しなければならないので玄関を先に開けるのは義母の役目だ。
リビングのテーブルには、ラップをかけたパンとバナナがいつものように置かれている。俺はバナナだけを片手に持ち、食べながら支度をする。
「玲おはよ」
駅に着くと高崎がいたので一緒に登校する事にした。
「おはよ」
「そういえば昨日のテレビ放送のアニメみたか?」
「見てないけど…どんな話だったの?」
「いやー俺も途中で寝ちゃって大体の内容しか分からないんだけど…漫画家を目指す主人公の話で、そいつ、めちゃくちゃ失敗するんだよでもそれでも折れずに努力するみたいな話。」
「主人公が初めて漫画がヒットしたとこまでは見たんだけど…」
そう会話を交えつついつも通り、電車に乗り込む。
このまま学校に着くまでずっと自分から喋らないのもさすがになと思い一声尋ねる。
「突然だけどさ、高崎って、現実感のある夢を見たことある?」
「うーん、たまに高いところから落ちる夢を見て、落ちた瞬間にビクッとして起きることはよくあるけど、まあそれくらいかな」
「……」
詳しく聞きたかったけれど、その話題はあっさりと流れていった。しばらくの間、俺と高崎の間には沈黙が続き耳には電車の走る音だけが響いている。この時間、帯学校に向かう道のりが、どこか憂鬱に感じられた。
学校いや、公共の場というものは実に不思議な場所だ。無数の人間がそれぞれの問題を抱え、共に過ごさなければならない場所。だからこそ、その複雑さや難しさがひときわ際立つのだろう。
「ぼーっとして、どうした?」
「ただ、眠いだけ」
『あまり話すことがないな』そう思いながら、俺は高校の門へと足を進めた。高崎とは高校に入ってから約半年で親しくなり、付き合いは短いけれど、意外にも沈黙が全く気まずくない関係を築けたことに、内心驚いていた。
俺と高崎は教科書がぎっしり詰まったリュックを背負い、校門へ向かって歩いていた。日陰のひんやりとした空気が肌を刺すが、校門に近づくにつれて太陽が顔を出し、少しだけ暖かさを感じさせてくれる。
授業が終わり、毎日のようにオレンジ色の夕日が俺の顔を照らし、足音が静かな地面に響く。授業中は、まるで聞いているフリをしているだけのようなもので、実際はほとんど集中していなかった。帰宅部だから、放課後は決まって一人で家に直行する――何の変哲もない、平凡な高校生活。普通の学生、普通の一日。
手に持った半分しか残っていないペットボトルを持ち帰りながら、駅に向かう途中でそれを不意に落とした。その瞬間、ただ手が滑っただけではない、何か本能的な感覚で落としてしまったような気がした。なぜなら、その時目の前に現れたのは、まるで鏡に映った自分と瓜二つの女性だったからだ。
『それも夢で見た女性』
「おい、まじかよ…?」
服装は俺と同じ高校の制服で高校も一緒なのだろうか。しかし、その似ている姿には驚いた。夢で見た人とこんなにも似ている人がいるなんて、こんな珍しいこともあるのだなと感心しながら落としたペットボトルを拾い電車に乗ることにした。
俺はその瓜二つの女性に吸い込まれるようにさりげなく近づいた。珍しい人を見かけるとついついジロジロ見たくなってしまうのは、どうしようもない好奇心のせいだ。電車の中は学生や社会人、観光客でパンパンに詰まっていた。外の肌寒い気温とは真逆で、電車の中はとても心地よい空調が効いていた。
俺は彼女の顔をしっかり確認できる位置に立ち、彼女は俺とは逆の入り口の前でぼーっと立っていた。その顔には不安と覚悟が入り混じった複雑な感情がなぜか見て取れた。それと彼女からは不思議な圧力を感じてきた。普通の人間なのに、心の奥が押し詰められたような感覚がするのはなぜだろう。
ドアが閉まり、俺はつり革を握りしめ電車は動き出した。電車が止まった後、再び動き出すときの振動で人々が少し揺れる中、再度彼女の顔を見て改めて驚いた。まるで夢の中にいるような感覚を覚える。夢の中の記憶が曖昧であるはずなのに、どうしてこんなにも似ていると感じるのかは分からない。
しばらくして俺が降りる駅に着いた。結局電車に乗っている間ずっと彼女のことしか考えていなかった。彼女がまだ降りる気配がなかったが、また会えたらいいなと心の片隅で思いながら電車を降りた。
そして俺は今夜も同じ夢を見るんだろうなと悟った。
◆
「助けて…!」
「え?」
「ゴ、ゴキブリが!」
「わっ、わーー!」
彼女が悲鳴をあげた瞬間俺も情けなく悲鳴をあげてしまった。
それはゴキブリが嫌いという理由だけではない。
「そんなのどこでもいるだろ」
強気の"夢の中の姉貴"がゴキブリにビビる冬華さんと俺に強い言葉をかける。
そして俺は確信した。
『夢の展開が変わっている』
いつもの夢であれば彼女が『助けて…!』と言った状態で夢が終わるはずだ。俺はまた、同じ夢を見るんだなと覚悟して布団に着いたので夢が急に変わるのはさすがに急展開すぎた。
展開が変わっている以外にそれと、変わってるいることがもう1つある。
それは『意識がはっきるしている』ということだ。本当だったら夢の中にいるぞという意識なんていつもはなくて起きた後に曖昧な記憶で現実の脳に刻まれた。
あと1つ変わってるいることがある。
『夢の中にいる自分が現実の自分の記憶のまま夢にきている』
前まで見ていた夢は自分でも分からない"自分"が一人称になり毎日無限ループする夢を彷徨っていた。
だけど今は違う。いま夢にいるのは現実の自分だ。分かりやすく言うと別の世界軸に転生されたような感覚に今陥っている。
「なに…これ…」
「え?」
夢の中の姉貴が僕の顔を不思議な目で見つめる。そう俺に尋ねる、姉貴であるはずの人物にこう聞いてみた。
「今って西暦何年?」
「いや、どんな質問だよ…」
「い、いいから今何年?」
「2105年の6月22日だけど?」
「は?」
「そんな事より彼女きてるんだから部屋あがりなって」
「じゃ、じゃあ君の名前は?」
俺は夢の中だけの姉貴であろう人物にきいてみた。無意識でタメ語で喋っていたが、こっちからしたら名前も知らない垢の他人。現実では僕は姉貴なんていないのだ。
「名前って…頭でもおかしくなった?」
「だ、だよね…あはは」
「とりあえず部屋あがりな」
「いやお客さんなはずなんだけど…」
「え?そうなの?どう見ても玲と同い年っぽいんだけど…」
「ち、違います!私はこの店に行きたくて道に迷っていたらたまたま店の人に会ったってだけであの、その、玲くんの彼女ではないです!」
姉貴が誤解した瞬間、即座に彼女は誤解を解いた。
「え、そうなの?じゃあこれメニュー表だから飲みたい物とかあったらすぐ作りますのでどうぞごゆっくり。」
「あ、はい…」
そして冬華さんはメニュー表を片手に持ち少し見た後、僕にこう言った。
「君、ちょっとここに座ってくれる?」
カフェの2人用のブラウンのサイドチェアに座った冬華さんはとても不思議な目をしており、なぜかまた不安さや複雑さが見て取れる。なんだろう。さっきから嫌な予感がする。
「え?」
「とりあえず座って」
俺は彼女の指示に潔く従う。そうして彼女はこうぼっそりと呟いた。
「“2024年。この年になにか心当たりがある?”」
「え?な、なんで…」
「やっぱりそうみたい…しかし驚いた。私と一緒の境遇の人がいるなんて、今回が初めてだよ…何か私たちに共通点があるのか…。なぜ私以外に現実から来た人がいるのか…。」
「ちょ、ちょっと待ってください!じゃ、じゃあこの世界はなんなんですか!ただの夢じゃないんですか!?」
そう冬華さんに俺は問い詰めた。
「………れ、玲くんだっけ?……とにかく、とても言いづらいことなの。今は話せないわ…」
「じゃ、じゃあ、」
「聞きたいことが山ほどあるのは分かる。だってこんなの不思議だよね。まるで異世界転生したみたいな…“夢の中”のはずなのに。」
「あ、あのメニューは決まりましたか?」
「じゃあカフェオレで」
冬華さんはとても冷静だった。
「……」
「玲は?」
「あ、じゃあオレンジジュース…」
俺は混乱している。今日は冬華さんに似た人を見つけて、その日は何もせず寝た。そしていつもとは知らない夢。意識は前とは異なり現実の意識のままでまるで異世界転生したような感覚だ…
そして一番怖いのが戻り方がわからないことだ。夢という事は分かっているのに…どんなに頑張っても現実に戻れる気がしない。前の日冬華さんに似た人物、それは現実の冬華さんでそれを見つけた事が“トリガー”でこの夢に来たという事だったら辻褄は合うんじゃないのか。
「大丈夫?」
そう考えこむ俺に冬華さんは心配そうに僕を見つめた。
「は、はい…、あのこんな事言うのもなんか変ですけど…現実に戻る方法ってあるんですか?…」
「……それは安心して。とりあえずポケットにあるスマホを開いて」
「え?」
俺はポケットに手を入れて何か手触りがある事を悟った。
「す、すげえ…」
「時刻は?」
「23時20分です」
「その時刻が5時を示したら現実に戻れるの」
「そ、そうなんですね…」
すごく安心した。そう分かったら冬華さんがこの状況で驚くほど冷静なのは他人事だが納得できた。
とりあえずこれはただすごい“現実味のある夢”というわけなのだから。
「じゃ、じゃあこのまま何もしなくても現実に戻れるんですね」
落ち着きを取り戻し冬華さんを見つめた。
「まあ、そうね…」
「はい。こちらカフェオレとオレンジジュースです。」
姉貴がそういうと俺はグラスに手を伸ばした。
「う、うま…」
俺は思わず驚いてこんな声を出してしまう。さすがに夢の中なので味覚は感じないと思った。試しに自分のほっぺもつねってみてもただ痛いだけである。
「しかし、不思議ですよね。夢でただ寝ただけというのにこんな世界に飛ばされて、味覚も痛みも感じるなんて。」
「そ、そうね」
「急であれなんだけど玲くん、。死ぬ事って怖い?」
彼女は不思議と涙で潤った目を俺に向けてこう言ってきた。正直反応とても困る。夢の中のはずなのに。
「ま、まあ怖い事だとは思います…。」
「私も怖い。でももしそうゆう運命だとしたら君はどうする?」
「そりゃあ、受け止めるしかないと思います。人間はいつか死にますし、その運命に逆らうことは誰にもできませんから…」
「てか、なんでそんな話を…」
「いや気にしないで」
その瞬間スマホが急に鳴り響き、部屋の静けさを打ち破った。『ビービービー!』と、不吉な警報音が耳をつんざく。
「……」
「玲!と、お客さん!急いで逃げないと!」
姉貴はとても焦った表情で言った。
「え?」
俺は警報が鳴っているスマホをすぐ様に確認した。
『Syntheticによる進行がとても激しくなっています。急いで避難をお呼びかけいたします。』
「な、なんだよこれ…」
「“シンセイティカ”…。それはAIで人類を滅ぼすそうとしている極悪集団よ。」
混乱している俺に冬華さんは言った。
「2105年。それはAIが人類の知能を遥かに上回った世界なの。そしてAIで人類を支配しようと立ち上がった集団がSyntheticというわけ。とりあえず今はお姉さんの指示に従った方が身のためだわ」
「な、なんだよそれ…」
この時一つの疑問が浮かび上がった。それは『この世界は未来の世界なんじゃないか』、『本当に夢の世界なのだろうか』、という訳でもない。ただ
『この世界で死んだらどうなるのだろうか』
もし夢の世界で死んでしまったらもう戻れないのかと。
「早く乗って!」
ぼーっとしている俺に姉貴はとても真剣に言ったまるでさっきの姉貴の人物が嘘なのかと思うぐらいに。
「とりあえず今は話していてもきりがない早く乗ろう」
「お、おう」
冷静な冬華さんに続き俺は車に乗る。車から見える外の光景はすごく不思議なものだった。車でほとんど混んでいてとても焦っている人が多数。
俺は取り乱さずのを抑え落ち着いている事しかできなかった
『ビービービー!』
緊張して落ち着いてもいられない状況でさら俺の心を不安にさせた。その正体はスマホの警報音だ。
「やばい…どうしよ…」
姉貴と冬華さんは絶望した顔で外を見ていた。まるで世界が終わるのかと言わんばりに。ふと外を見ると都市は俺が目を離した一瞬の隙でほぼ
『絶滅していた』
その外の景色では銃を構えている人がいたり、それを恐れて逃げている人がいて、車からうるさく悲鳴が聞こえる。
もうなにがなんだかわからなくなってきた。この世界は本当に現実なのか、これは夢なんかじゃないかも曖昧だ。
“怖い”ただそれだけの感情だけが俺にののしった。
「降りて!早く逃げるよ!」
俺より小柄な姉貴が2人に言った。だけど俺は怖くて立つ事もできなかった。
「早く降りて!焦る気持ちはわかる!だけど今は“命”を優先して!」
「や、やだ…こ、怖い。」
そう怯えた俺は姉貴におんぶされるような形でポーズを構えた。
「早く乗れ!怖いなら私が変わりに動くから!」
俺は姉貴に従う事しかできなかった。なんて情けないんだろうか。
そして俺たちは建物に中の地下室に隠れた。
「どうゆう事なんだよ」
「玲くん…とりあえず落ち着いて…」
「落ち着いてられるかよ!?なんなんだよいきなりこんな痛みも感じる夢の世界に勝手に連れ込まれて、挙句の果てこれじゃねえかよ!?いい加減この世界の詳しい説明をしてくれよ!?」
俺は冬華さんにありったけの怒りをぶちまけた。
「コラっ!」
その瞬間姉貴に頭をたたかれる。
「あなた達がどんな事で揉めてるか私はわかんないけど、とりあえず今は焦ってても意味がない。ここから逃げ出す事を考えないと」
そう姉貴が言った瞬間扉を開くような音がこの部屋に響きわたった。
「え?」
姉貴がそう言った瞬間、銃を持った人が現れ俺たちにこう言った。
「手を上げろ!手に持っているものを全て出せ。」
「も、もうバレたのかよ…お客さん、玲を頼んだ。本当に申し訳ない。」
「え?」
「おりゃあっ!」
「グハっ!?」
その瞬間姉貴はナイフをポケットから出してその兵隊を刺した。
「お前ら早く逃げろ!殺されるぞ!?」
「玲くん早くいかなきゃ。」
「は?ど、どうして…」
冬華さんは俺の手を握り地下室の出口へと向かった。
「バイクに乗ろう」
出口のすぐそばには鍵のついた、少し年季の入ったバイクがあった。
「で、でも運転は…」
「やるしかないの。あとやり方なら兄貴に教わった事だってあるし。はやく乗って」
「……」
今は冬華さんに従いバイクに乗ることにした。
「しっかり掴まって」
俺と冬華さんはバイクを20分ぐらいどこに向かった。
「少し落ち着いてきた?」
俺と冬華さんは人気がなくとても木が多いところに着いた。
そして彼女は腕にある時計を見てこう言う。
「あと5時間。あと5時間耐えれば現実世界に戻れるわ。」
「……教えてください。この世界の事を。そして死んだらどうなるかを…」
俺は人気のない少し自然が生い茂ったところに着いた事もあり、落ち着きを取り戻していった。
「とりあえず今夜はここで身を潜めよう」
冬華さんは持っているバックからランタンを出した。暗い夜に照らされた彼女の顔はとても美しいと感じてしまった。
「正直な話をすると、私もこの世界の事はよくわからないの。ずっとこの夢にさまよってる」
「じゃ、じゃあなんで俺たちはこんな夢に来ているんですか?」
「それに関してもまったく分からないの…」
「今が私が分かる情報は、私がこの夢に来たのは1か月前なの。その頃からずっとこんな夢。」
「あの、じゃあ現実の事について聞きたいんですけど…もしかして高校って白桜高校だったりします?」
俺はずっと疑問に思っていた事を口にした。あの時は俺は冬華さんらしき人に会った。
「なんで知ってるの?」
「この夢を見る前の、まあ現実の昨日っていった方がいいと思うけど…冬華さんっぽい人に会ったんですけど、それで制服が俺の高校の制服だったから…。」
「……やっぱり私たちの間には何かあるかも知れない…。同じ現象にもあって、高校まで一緒なんて」
そう冬華さんが言った途端俺と彼女の声ではない声が耳を響いた。
「手を上げろ」
Syntheticの兵隊が来てしまった。しかも1人ではなく今回は少なくとも5人はいる。
しかも近くに落ちたら即死の崖が見えた。これを絶対絶命と言う。
「き、来ちゃったよ!」
「やっぱり自分達だけで逃げるのは無理だったみたい。そう言えば死んだらどうなるかの話はしてなかったよね」
「え?」
「昨日の朝の9時に渋谷のハチ公像前に来て。絶対待ってるから。あとごめん。」
そう彼女は呟くと、冬華さんは僕の手を掴み、高い崖から飛び降りた。
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