【奪われた聖剣】

※『異世界中二病プロジェクト』本日も副音声は()でファンタジー肯定派のクロノマオウ女史、ファンタジー否定派の成瀬女史、SF映画監督の神谷でお届けしています。


 割り込みの撮影は色々と準備不足だ。なので一日準備期間を取る。


 まず、撮影場所に設置しているカメラや音声の拾いもダメだし、魔法系のプロジェクターや照明もまだセットしていない。


 更にリハが少ないので立ち位置すら怪しい。


 本来、このプログラムは友人役の菅生と合流した後の話の設定だったものをクロノに書き換えて貰う。


 翌日、全てを一日で用意する予定でギルドの滞在を街の中の見学でミオナに引っ張って貰う。


 マオウにシナリオの変更と出来るだけ簡単に手直しを頼み、後はギリギリ出来ると思っていた。


 俺もこれまで上手くいっていたので少しうぬぼれていたのかもしれない。


 次々とアシスタントや照明の赤宮のスタッフが流行り病で倒れていき、完全に人員不足に陥った。


 俺は大道具のベルトをつけロケ地を駆けずり回る事になった。


 完全に時間が足りない。


 クロノは新しいストーリーの手直しを始め、ミオナにセリフを頑張って覚えて貰う。


 まあ、神の間からの指示にはクロノと成瀬がいれば大丈夫だろう。


 ~


 翌日、割り込みの撮影が始まった。

 

 神谷はまだセッティングに行っているので助監督セカンドの高野がメガホンをとる。


 (はい、それじゃあ始めまーす。『アクション!』)(高野)


 勇者しんたろうは一度寝たら起きない。


 ガタッ!


 盗賊役が勇者しんたろうの部屋のテーブルを派手に倒し慎太郎を見た。



 (あれ? 高野さん、起きないよ)(クロノ)


 (あれで起きないんですね。しかたない食器を並べて派手に倒しましょう)(高野)



 盗賊役が丁寧にテーブルの位置を戻し、スタッフの運んできたカップや食器をテーブルに沢山置く。



 (あれ、どっから沸いてきた設定なの)(成瀬)


 (多分大丈夫だよ)(クロノ)


 (えー)(成瀬)


 (もう一度いきまーす。『アクション!』)(高野)



 ガタッ、ガッシャーン!



 慎太郎が目を開けた。


「うん? あれ?、おい、それぼくの聖剣っ!」(慎太郎)


 盗賊が部屋を出て行く。


 寝起きで少しふらふらした慎太郎がドアを開けて出た。


 廊下の先にミオナが盗賊たちに捕まっている。


「し、慎太郎くん!」(ミオナ)


「くっくっくっ、おとなしくしな。あばよ!」(盗賊)


 盗賊たちがそのまま外へ逃げていく。


 慎太郎は何も持たずに飛びかかった。


 シナリオにはないが慌てて盗賊役が二人がかりで勇者しんたろうを捕まえた。



 (ありゃ、これは予想外ですね)(高野)


 (結構無謀だね。ミオナちゃんを助けたいのかな)(成瀬)



「お、ぼくの聖剣、、、」(慎太郎)



 (あちゃーミオナちゃんじゃないの!?)(クロノ)



 盗賊役のスタントマンが慎太郎に怪我をさせないようにそっと足をはらい転ばせ、そのまま足早に逃げた。


 独り置いていかれ呆然とする慎太郎。



 (ああ、これはちょっと無理っぽいですね。じゃあ、、、)(高野)


 (あ、ちょい待ち)(クロノ)



 しかし、慎太郎は素早く起き上がるとすぐに着替えて宿の受付へ向かう。


「すみません! 今、ぼくの聖剣が盗まれて仲間がさらわれたのですが、、、」(慎太郎)


「あなたのところですか。トラブルは困るんですよ」(宿屋受付)


「いや、トラブルって一方的に、、、」(慎太郎)


「盗賊達なら冒険者ギルドで聞いてみればわかりますよ」(宿屋受付)


「わかりました」(慎太郎)


 慎太郎は少し憤慨したまま冒険者ギルドへ向かった。


◇◇◇◇◇


 その頃、俺はその話の後半部分の設定を汗だらけになりながら頑張っていた。


 このアジトで慎太郎が手下のゴブリン達をやっつけミオナと二人で走って出て来る。


 そしてミオナの魔法で背景で爆発するシーンだ。


 今カメラ位置を決めセットし赤宮の手伝いでプロジェクターを隠して照射出来る位置に大道具のノコギリやナタを使って藪を切り落としてセット中だ。


 結構時間が掛かっている。


 (監督~、もうアジトから出ますよ~)(高野)


  くそっ! 思ったより進行が速そうだぞ。


 間に合わせないと、、、。


 不味い、出て来た、ギリギリプロジェクターが一台間に合わなかったが大丈夫だろう。


 俺は草陰に慌てて隠れた。


 ~


 タッタッタッ!


 ミオナと慎太郎がアジトから走って出て来た。


 ミオナが振り返り呪文を唱える。


 『~エクスプロージョン!~』

 『~ボカ メア アドテラメアム~』


 うん!? なんか変な呪文とかぶってるぞ。


 ズガーン!


「ミオナちゃんやったよ!」(慎太郎)


「うん、慎太郎くんのおかげ、、、」(ミオナ)


 その時、俺の足元がグラッと揺らぎ、気が付くと、、、野原にいた。


 ミオナと慎太郎もいる。


 な、なんだ、一体どうなってるんだ。


 ローカルの俺の発信機は電池がまだ生きている。


『ミオナ! これどういう状況か判るか?』(神谷)


『か、かん、、神谷さん!?』(ミオナ)


「ミオナちゃんこれどうしたんだろうね。あのおじさんは知り合い?」(慎太郎)


『ミオナ、親戚のお兄さんにしてくれ』(神谷)


『私の親戚だけど、どうやら一緒に異世界に来てたみたいね』(ミオナ)


 ミオナがこちらへ歩いて来る。それにつられて慎太郎も、、、。


「ど、どうしたミオナちゃんこんなところで」(神谷)


「こっちが聞きたいですよ。ところでここは、、、」(ミオナ)


「ごめんごめん、僕が呼んだんだよ」(見知らぬエルフ)


「おい! どういう事だ」(神谷)


 呼んだだって、これは一体、、、。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る