第10話 どうしても、あんたがいい
「――は? 膝……?」
そこで清史の勢いが一気に削がれた。どうやらかなりの衝撃を受けたらしく、瞳が大きく見開かれる。
それをなんだか気の毒に思いつつ、拓実は苦笑して言葉を続ける。
「そう、練習のし過ぎでな。まぁ今は日常生活には支障ないし、一曲踊る程度ならできるんだけど。でもバトルの大会となると、勝ち進む度に踊らなきゃならないだろ? 今の俺には、それはちょっと厳しいんだよ」
そう告げると胸の中、じんわりと切ない気分が広がった。
――嗚呼、まだ駄目なんだなぁ……
もうとっくに割り切ったはずなのに、苦しくなる。もう自分は大会には出られないのだと改めて認識すると、胸の中が喪失感でいっぱいになってしまう。
だが、嘆いてもどうしようもない事だ。拓実は己に言い聞かせ、感傷を胸の底まで押し戻した。世の中にはどうしようもない事だってあるのだから。
「――って、マジかよ……」
清史は茫然としたようにそう呟く。
「俺、あんたは絶対プロになってると思ってた……突然バトルからいなくなったけど、それは海外とか、どっか俺らの知らない所で活動してるからだろうって……なのに、踊れなくなってたなんて……」
その顔は拓実以上に悲し気だった。信じられない、信じたくないと、その表情が語っている。
それを見ていると感傷がぶり返しそうになり、拓実は視線を逸らしながら、敢えてさっぱりとした声を出した。
「はは、例え膝を壊してなくても、海外はハードルが高いなぁ。まぁなんにせよそういう事で、俺はもう昔みたいには踊れないんだ。バトルに出てもお荷物になるだけだよ。ブランクもあるし体力だって落ちてるし……だから悪いけど、三人目のメンバーは他の人を」
「あんたがいい」
と、拓実の言葉を遮ったのは、フロアの上で気を失っていた金髪男子、春親だった。
彼はむくりと上体を起こすと、射抜くような視線を寄越してくる。
「俺はどうしてもあんたがいい。つかこうして遭遇した以上、あんた以外の選択肢なんてもうねぇよ」
「……っ」
その余りにも真っ直ぐで、熱烈な言葉。拓実は思わず息を呑む。だって、こんなにも自分の存在を切望された事なんて、かつて彼女が居た頃だってなかったのだ。
その情熱と視線の強さに拓実はどうして良いかわからなくなり――だが、いい大人がどぎまぎしているのも可笑しいかと、咳払いしてから言葉を返す。
「えぇと、そう言われても……今、清史くんにも話したけど、俺は足の怪我があって」
「聞いてたよ。そんな事になってたとかガチでショックだけど……でも一曲なら踊れるとも言ってたよね? そんなら一曲だけでいい。今回の大会には、それが罷り通るルールがあるから」
春親が言うと、清史も「あぁ、そうか!」と手を打った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます